No.164 ババ抜き(盗品を巡る騒動記)その2

このお話はフィクションです、似たような所がありましても、偶然の一致で、実在の人物、お店、法人や実際の事件とは関係ありません。

 

その5

「どう、あの話、弁護士さんに聞いてくれた?」
それから3時間くらい経った時でした。
私からの電話を待ちかねたのか、また梅田さんから電話がかかってまいりました。
「ウン、ちょうど事務所に帰っていらっしゃった先生を捉まえて、聞いた所」
「で、どうだった」
「貴女が、後の方で言っていたような所を、もう少し分かると良いんだけどと、言ってらっしゃったわ」
「証拠品の作品の提出を急ぎ立てる警察には、どう対処したらいいか、何か良いアドバイス下さらなかった?」
「『目下、その作品を売った業者と係争中だから、作品の提出は、しばらく待って欲しい』と警察には言っておきなさいとの事でしたよ」
「もしそれでも駄目で、なおも、『ヤイノヤイノ』と言ってこられたら、『申し訳ありませんがそれなら、裁判所からの令状をとってからにしてください』と言って突っぱねておきなさいとのことでした」
「令状って、とるのがなかなか面倒らしく、そう言うと、令状をとってまで、その作品を押収して行くのは、よくよくの場合で、普通は少ないそうよ。
もし、それでもなお、令状をとって、その作品を押収しに来たとしても、それまでに時間を稼げるでしょ。その間に解決を図ればよいのだそうです。
もしどうしてもその時迄に解決が出来ず、令状が出てしまったら、その時は仕方がないから、後の対策は、それから考える事にして、さしあたっては、それを渡すんだって」
「フーン、分かった。それなら、そうして頑張ってみるわ」
「ところでさー、あれから、何度も何度も、太田川店や、本店、東海警察署といったところへ、電話をして、先ほど言っていたような事を、くどくど聞いているうちに、おかしなことが分かってきたの。
最初に口を滑らしたのは、本店の電話番をしていた人だったわ。
その人の口から、問題のこの作品、警察から、『盗品である疑いがあるから、しばらくの間、売るのを控えて欲しい』と言われていた作品であった事が分かったの。
詳しく言うと、フクフク太田川店にきて、この作品を見つけた捜査員が 『今の所、被害届が出ていないから、警察としては、この作品を、売るのをさし止める訳にはいかないが、いま捜索中の窃盗事件に関係している品物である可能性が強いから、はっきりするまで売るのは控えて欲しい』と言っていった作品だったそうなのよ。
それをきいた私は、すぐに、フクフク太田川店の店長である一条氏に、電話して、そこのところを確かめたわ。
すると、『うちに来た捜査員から、この作品に付いて、そのような事を言われたかもしれません。
でもその時点では、はっきり盗品と決まっていたわけではなく、又、その時の警官から、販売の差し止め命令を受けたわけでもありません。ですから、貴方の所に売ったのです』とシャーシャーと言うのよ」
「図々しい奴」
「そんな事が分かっていれば、そんな盗品かもしれないような物、誰が買います?
それを隠して、しかも、警察に言われた翌日に、慌てて買い手を探して、私どもに売ってよこしたのですから、悪質よね。
それって、明らかに不当行為とおもわない?
この一事をとっても、この契約は無効だと思うんだけど、先生はどうおっしゃるかしら。
でも警察も警察よね。そんな盗品の疑いがある物を、販売自粛の要請位で、後は、お店の善意にまかせるなんて。
これじゃー、そのお店に、この品物は盗品の可能性がありますから、早く売り逃げした方がいいですよと教唆したようなものだと思わない?
わたし、その事に付いて警察に文句言ってやったわ。
でも警察って、ずるいのよね。
『捜査中の事件だから」と口を濁して、相変わらず何も教えてくれないのよ。
そこで、フクフク本店の店員から聞いた話を元に、その点、どう言う風にされたのかを再三、問い詰めてやったわ。
すると、やっと、『確かに、その品物については、捜索中の窃盗事件に関連している可能性が強いとは思われました。
しかしその時点では、まだその作品の盗難届が出ていませんでしたから、盗品とは確定出来ませんでした。
その為、この事件の証拠品として提出を申し出でたり、あるいは、販売差し止めの命令を出したりするわけにもいきませんでした。
そこでやむを得ず、販売の自粛を、お願するに留めました。
警察としては、販売を控えてほしいと要請しておいた物が、慌てて売られるなんて事は、思ってもみない事で』と言う,返事が返ってきました。
『盗品かもしれないから売るのを自粛して下さい』と警察から言われていたような作品を売るというのは、罪にならないのですか」と聞きますと、
「盗品とまだ決まってないうちに、売ってしまわれたわけですから、商業道徳的にはどうかとおもいますが、犯罪としての立件は、難しいと思います」と言って終わりでした。
「考えてみれば、おかしな話よね。盗品かもしれないのに、盗品と決まらないうちに、上手い事、売り抜けさえすれば、それで罪にならなく逃げてしまえるなんてね。
これじゃー、私のところは、まるで、ババ抜きゲームの、ババを掴まされたようなものよねー。
でも、ここでゲームオーバーにするわけにはいかないわ。
今、握らされているこのババ、掴ませた奴に、もう一度、掴ませてやらない限りね。
だからその為、もうひと踏ん張り、頑張ってみるつもり」
「ちょっと待って、
まさかこの作品を、誰か、他の第三者に売ってしまおうと思っている訳じゃないわよね。
そんな事しちゃー、絶対に、駄目よ。
今、そんな事をしたら、あんたは、盗品と知っていて、売るわけだから、明らかに、犯罪になるからね」
「大丈夫よ。そんな法律や、商業道徳に反するような馬鹿な行為はしないから。
ババ掴ませた奴に、もうひと泡吹かせてやろうというだけよ。
だって、このまま泣き寝入りじゃ―、金も惜しいけど、いかにも悔しいじゃない。
正しい事が、通らない世の中がまかり通るなんて」

 

その6

「でどうだった。弁護士さん、何か良い知恵を授けてくれた」翌朝早く、梅田さんからまた電話。
「そう、あなたの言っていた事を話して、今後どうしたら良いか聞いてみたわ。
でもそれほど丁寧に教えてくれたわけじゃないから、どれほどお役に立つか分からないけど。
先生がおっしゃるには、『この件は、盗品と言う可能性がある事を知りながら、それを告げないで、梅田さんの所へ売ってよこしたのは、明らかに不当行為である。だから、民事で争えば、支払ったお金は戻ってくる可能性が充分にあると思う』
『この程度の金額の係争は、争うとしても、少額訴訟と言う事になりますが、この件は、そんな手間とお金をかけないで、フクフクの太田川店や、本店に、掛けあって、裁判まで持って行く前に、お金を取り戻すようにした方が良いのではないでしょうか』
『フクフクの方だって、これが表沙汰になれば、お店の信用に傷が付く事になりますし、それに本店だって、共同責任は免れないということはわかっているはずです。
だから此方の覚悟が、伝わるように交渉しさえすれば、あちらさんから、折れてくると思います。
ただその為には、交渉している間は、その問題の品物、この場合は、絵画ですが、それを、梅田さんの手元に置いておく必要があります。
取引を白紙に戻し、お金を返してもらう為には、お金と交換に、この問題の作品は(梅田さんが買った作品)、相手に渡さなければなりませんから』
「従って、警察に対しては、『「本件は、売り主と係争中であるから、今すぐの、任意での証拠品としての作品の提出には応じられません」と言って、その作品の提出は出来る限り引き延ばしておいて、その間に交渉を終わらせるよう持って行く事です』とのことでした。
ようするに、『お金取り戻したかったら、さしあたっては、貴女が自分で頑張ってみなさい。梅田さんのやりかた次第で、お金は、戻ってくる可能性が強いと思いますから』
『もし万一、交渉だけでは、どうしようもなく、裁判で争うより方法がないということになった時は、力になりますから、またその時、相談して下さい』と言うのが弁護士さんの意見のようでしたよ」
「フーン。やはり自分で頑張るより仕方がないということなのかー。大変だなー。
どうして私が、こんな目に遭わなきゃならないのよ。癪に障る・・・・」

以下次号に続く