No.34 ハイエナうようよ
人が困って首を吊りそうになっているのを見たら、それを止めるのが人情と言うものだと思います。しかし世の中、欲が絡みますと必ずしも助けてくれる人ばかりとは限らないのです。
「人の不幸は密の味」とばかりに人が苦しむのを面白がってみているだけの人はまだ良い方、首を吊っている人の足を引っ張ってしまう人も出てまいります。それどころか弱ってきたところを「これをチャンス」とばかり一飲みに呑み込んで食べてしまう輩もいますから世の中恐しいですよね。
特に最近は不景気ですから、皆余裕がありません。それだけによほど気をつけないと、ひどい目に会わされる事があります。バブルの時 北海道の未開の土地を高い値段で買わされ、売るに売れなくて困っている人のところへやってきて、「これこれのお金を出して下さるならそれをうまく売ってあげます」と言って近づき、整理料として更にお金をむしり取っていってしまった話とか、多重債務者の所へ「借金をうまく整理してあげます」といって、結局は余計に借金を増やさせてしまうといった話等など、このような話があちらにもこちらにもごろごろ転がっている時代です。
ある業者さんが倒産しました。ご多分にもれず、バブルの時の株や土地の投機の失敗に 商品の値下がりと言うダブルパンチを受けての事です。
こうして借金が膨らみ銀行に借りることが出来なくなった人が次に手をつけるのは町金融です。ところがこういった金融業者の金利は非常に高いものですから、借り換え、借り換えを繰り返すうちに借金は雪達磨式に膨らんでしまい、身動きも出来なくなって最後は倒産と言うのが普通 のパターンですね。
この間、金融業者の取りたては厳しいし、そうかといって自分の立ち上げてきた事業は可愛い、さらに倒産と言う不名誉だけはしたくない、保証人に迷惑かけたくないと思いもあるものですから、何とか倒産だけは免れようとバタバタされます。いわゆる悪あがきというやつです。 親戚、友人は言うに及ばず、ちょっとのツテでも頼ってお金を借りまくるのです。こうしてあっちにもこっちにも迷惑をかけた揚げ句、結局は夜逃げ、倒産と言うのが一般 的なコースなのですが、私たちに業者の場合、それだけではないのです。
それに加うるに他の業者さんから取引を装って品物を借りると言う手を使われるのです。同業者のところへ行って、そこのお店の品物を売ってきてあげるような顔をして品物を借り出し、それを担保にして金融をやっている業者さんのところから金を借りたり、交換会(業者間で行うオークションのようなもの)で売って金を作ったりするのです。 私が画廊を始めた頃、ひどい目にあわされたという業者さんもこうしてあちこちの業者さんから品物を借りまくられたあげく、品物のお金はほとんど払わず、最後は自己破産と言う事で逃げてしまわれたわけですが、これによって迷惑を受けた業者さんは数知れず、そのため傾いてしまった店もあったほどなのです。
ところがこの潰れかけの業者さんを利用してお金儲けをしてしまう人もいるのですから、世の中油断も隙もありません。
すなわち私達のような業者から品物を借り集めさせといて、それを時価よりずっと安い値段で引き取ると言うやつです。こんなのは私達からみれば詐欺の共犯か、盗品故買だと思うのですが、実際には余程のことでもない限り罪にならないのですからひどい話です。いわゆる善意の第三者と言う事で逃げてしまいます。
そして結局大儲けしたのはそういった人達だけで、無論倒産した人は丸裸、骨までしゃぶられます。 ましてその人に金や品物を借りられた人達はそれで金策がつかなくなり、連鎖倒産といった被害を受けるのです。良い人はしゃぶられ、悪いやつほど良く眠るといったわけです。 例え警察に訴え出たとしても、警察は民事不介入と、ただ聞き置くだけです。よほど被害が拡がれば別 でしょうが、そうでない限り動いてくれません。
従って被害者は泣き寝入りするより仕方がないと言うわけです。悔しいですよね。癪に障りますよね。しかしこれだけで終れば世の中良くある話。珍しくもない取り込み詐欺というものだとお思いでしょう。
ところがこれには後日談があるのです。その被害の後、被害に遭った人達が集まって善後策を協議しました。しかし集まって相談したとしても良い案が出るわけもなく、結局何の結論を出す事もなしにお別 れとなってしまいました。その会議中、その手口のあまりの汚さに「許せない。詐欺として刑事告訴してやる」といきまいていらっしゃった人達もおられたとのことです。しかしどの人も商売をしている人達はみんな忙しい身、過ぎ去った事にいつまでも拘わっていては商売があがってしまいます。そこで忘れるともなく忘れてしまって数日立ったある日の事です。
その被害者の一人のところに、あるところから電話がかかってきました。「あの件一緒に刑事告訴しませんか。」「ご承知のように普通 に警察に訴えただけではこういう事件、警察は何もしてくれないのが普通 です。しかし警察に顔がきく優秀な弁護士さんを通して告発すれば受理され事件にしてくれるそうです。尚、依頼の場合さしあたり着手料として3000万円位 かかります。被害の大きかったところでそれを持つとしますと一軒当たり300万くらいかかりますがどうされます」といってこられたそうです。その人は色々考えた末お断りになりました。さてこの告発話 乗る人が少なく結局はお流れになったそうです。
しかし冷静になって考えてみれば、もしその優秀な弁護士さんの助けによってその人(物を借りていった人)を詐欺罪として告発し、うまく警察に捕まえてもらったとしても、当人表向きは(多少は隠していたかどうか解りませんが)何も持ってない破産者なわけですから一円も取り返せるわけではないでしょう。さらにその人の取調べの結果 として、その品物の流れていった先が判明したとしても、その頃には品物は第三、第四の人へと渡ってしまっております。しかもその人たちはいわゆる善意の第三者としての理論武装をしていらっしゃるわけですから、品物を取り戻すためには時価に相当する位 のお金が要ることになってしまいます。それこそ盗人に追い銭というわけです。そう考えますと(告発を考えた人の思惑はどうだったかわかりませんが)この弁護士の費用も憂さ晴らしだけの代金としては高すぎですよね。もしそれだけのために告発を引き受けようとされるのでしたら、その弁護士さんも罪作りな人だと思いませんか。しかし弁護士さんの中にはお金のために変な事件を引き受けられる人も結構いらっしゃるようですから要注意です。