No.24 花嫁さんのかくれんぼ

又聞きですから現地の人からすると間違っているといわれるかも知れませんが、細かい点は多少の間違いがあってもお許しください。

沖縄本島の南部にある知念村から東約5キロメートルの沖合に久高島という島が浮かんでおります。日本の僻地にあるこの島は 長さ約4キロメートルの細長い小さな島ですが、琉球の始祖、アマミキヨが降臨したといわれる島だけあって、仏教やキリスト教などの影響を受ける事も無く、今でも昔の神々が生活の中に生きているという、まさしく日本のバリ島のような島なのです。
その所為かこの島にはつい最近までは変わった風習が色濃く残っていたといいます。このような奇妙な風習の一つに 式の後花嫁さんが逃げ出し、花婿さんがそれを追い駆けて探すという花嫁さんと花婿さんによるかくれんぼみたいな風習が有ります。
花嫁さんは親戚や友人の助けを借りて逃亡者のように逃げ隠れ、花婿さんはやはり友人や身内の人の助けを借りて追跡者となって追い駆ける訳です。
一般には 花嫁さんもそれを助ける身内や友人達も此れも風習の一つと割り切っていますからなるべく花婿さんに見つかりやすいよう色々と手がかりを残して逃げます。したがって小さな島の事でも有り数日以内に捕まってめでたく結ばれるというのが普通です。
ところがあるカップルの場合は違っていました。花嫁さんもそして逃亡を助ける友人達もとても悪戯好きだったのです。彼女たちが集まってワイワイガヤガヤとしている内に面白半分に少し花婿を焦らしてやろうという事になってしまったのです。
その上彼女の友人にとても知恵者がいたものですから大変です。花婿さんが探しても探しても中々見つかりません。少し手がかりは残して有るのですが、それも分散していたり偽の情報だったりして、捕まらないのです。やっと探し当ててその場所に行ってみるともうそこにはいなくなっているという事の繰り返しなのです。こんな事を繰り返している内に、花婿さんの友人達はだんだん熱が冷めてしまい、一人減り二人減りと言った具合に協力者が減って行ってしまいます。一方花嫁さんの方は逃げている内に最初はこのゲームに夢中になり、そのうち何となく出そびれ意地になってしまいますます巧妙に逃げ歩きます。
こうして追い駆け追い駆け、逃げに逃げて半年、とうとう花婿さんは熱も冷め、それにばかり関わり有っておれないと遠洋漁業に出かけて行ってしまったのです。そして旅先で昔々の彼女とよりを戻してしまったのです(旅先で出会った都会風の現代娘と出来てしまったと考えると又別 の展開が考えられます)結局この縁談は御破算となってしまったのですが この話し何かに似ていると思いませんか。  花嫁さんをデュシャン以降のコンテンポラリーアート、花婿さんを芸術家達、そして花婿さんの友人達を一般 の美術愛好家と考えると何かにそっくりと思いませんか。

画家達は絵画の本質とは何かと懸命に探します。そしてあちらで手がかりを見つけたかと思うと裏切られ、こちらで見つけたと思うとするっと逃げられるといった事の繰り返しで、どうしても捕まりません。応援していた絵画の愛好家達もそれに連なって右往左往するのですが、その内何が何だか解らなくなってしまい、一緒に探す熱も冷めてしまい やっぱり昔の彼女の方が解りやすく、心が休まって良いと言い出します。
画家達の方も探している内に混乱し且つ根負けしてしまって、結局そうかなと思ってまた具象傾向の強い絵画に戻って行ってしまう。こんな風潮、一部の画壇の傾向に似ていると思いませんか。
又別の展開を考えればインスタレーションなどの様なハイテクを使った現代美術と当てはめてみると旅先であった女性は、ハイテクで武装した都会的なバリバリの現代女性で、その女性を連れて帰られた島の人達はその女性に翻弄され戸惑っているというのが今の美術界の状態を現す切り口の一つかも知れませんね。