No.142 虎穴に入っては獲た(えた)ものは?その1

このお話はフィクションです万一、似たようなところがありましても、偶然の一致で実在の人物、実在の建物、実際にあった事件とは全く関係ありません。

 

その1 始めに

5月に入ったある朝、親しくしていただいているT画廊をお訪ねした時の事です。
ご主人、なんだか難しい顔をして、新聞に見入っていらっしゃいます。
「どうしたの、難しそうな顔をして。またなんか大事件のニュースでも載っていた?」
「いや、そんな事は無いけど。ここ、ここを見ていたんだよ、青ちゃん」と見せて下さったのが、三面記事のページ。
でもそこに載っているのは、別段目新しい所もない、日頃見慣れた、ありふれた記事ばかりです・
「どれ、何。どれの事。何処にも、そんな大して目を惹くニュースなんか、載ってないけど」
「青ちゃん。ここ、ここ、ここのところ」と指さされた所にあるのは、1段、11列ほどの、虫眼鏡でも持って来なければ気付かないほどの、小さなベタ記事。
「震災地で、車上荒らし 宝石商盗難」の見出しも、普通の記事の活字と同じ大きさで、それがやや太くなり、そしてその活字間隔がやや空いている程度です。
記事の内容も、「28日(金)午後2時30分ごろ、福島市春日町の路上に駐車してあった、宝石商A氏の車の中から、宝石、貴金属装飾品入りのカバンが盗まれた。被害総額1,800万円。なお当地方においては、類似の窃盗事件が頻発しており、捜査当局は、厳重注意を呼び掛けている」といった程度で、特に目新しい所も無く、どう考えても、紙面の空欄埋め合わせ用といった取り扱いの記事です。
「この記事に何か問題でもあるの?ただ宝石商が福島で盗難にあったと言うだけの話じゃないの?」
「それとも、このA氏と何か関係でもあるの?例えば身内だとか、お得意さんだったとか」
「いや、全く関係ないけど」
「只ね。私の知っているヴィラ―ジュ画廊のCが、震災後に、あの地方まで出かけていったあげく、絵を盗られたらしいという噂話を思い出してね。やはりあちらの方は物騒なんだなと思って」
「えっそうなの。でもそんな記事載っていたかしら。全然気付かなかったけど」
「新聞記事なんて、その日あった事件全部が載っている訳じゃないんだぜ。編集の時、その日、もっと載せたいと思う記事が沢山あると、画商が絵を盗られた程度の話は、よほど大きな被害でもない限り、ボツになって、載らないのが普通だよ」
「へー、で、Cさん、いくらくらいやられたの」
「それがね、何でも3,000万円ちょっとくらい、やられたらしいんだよ」
「そりゃー大変だ。でもまさかそれだけの絵画を、何の当ても無い所へ、一人でもって行った訳じゃないでしょ」
「そう、確かに、絵を買いたいから見せてくれと言う注文があったから行ったんだよ。ただ、その日、たまたま日曜日だったものだから、従業員も連れないで、一人で行ったのがいけなかったみたい」
「Aさんにしても、Cさんにしても、馬鹿だねー。ああいう大災害の後というのは、捜査当局も手薄になっているため、盗難も多発するものなのにね。そんな時に、そんな所へ、高額の品物をもっていったなんて、それもたった一人で。
それって、泥棒に、『どうぞ、持って行って下さい』といっているようなものじゃないの」
「大体にして、今時、福島県で、絵だとか、宝石などといった不要不急の高額商品が、本当に売れると思ったのかしら?
もともと過疎化の傾向を強く受けている所へあの大災害、そしてさらにそれに追い打ちをかけるかのような原発事故でしょ。
これから以降、あの地方は、当分駄目よ。人は出て行ってしまうわ、若い人は戻ってこないわで、町だって寂れていく一方だと思うよ。
そんな所に住んでいる人が、今、絵や宝石を買おうと思うかしら。普通の感覚の人なら、先行きが心配だから、いくら金持ちだって、美術品だとか、貴金属なんかに、今は目もくれないと思わない?」
「うーん。冷静に考えれば、それはそうだけどねー。でも復興需要を当て込んでかもしれないじゃん」「そんな起こるか起こらないか分からないような景気を当てにして、今さしあたって必要もない、美術品のようなものを先買いする人って、本当にいると思う?私にはそんな人がいるとは、とても思えないけど」と言った所で、ちょうどお客様がいらっしゃったので、その日は、そこで話は打ち切りとなってしまいました。

 

その2

それから10日位後、先日の話が気にかかった私は、再び、あのT画廊を訪ねました。
Tさんは50歳代半ば、東京都心、銀座に画廊を構え、30年余もの間、絵画の販売に携わってこられている、大ベテランの画商です。
従って、知己も多く、いろいろな経験も積んでいらっしゃいますから、この道の事は、とても詳しい方です。
話題も多く、この業界で起こっている情報にも通じていらっしゃって、いつも面白おかしくそれを伝えて下さいます。
だから私など、大フアンで、話を聞きたくて、折にふれては彼の下を訪れております。
その日も、Tさんは、私の顔を見るなり、切り出されました。
「この間、青ちゃんはさー、『こんな時に福島なんかに絵を売りに行くなんて、馬鹿と違う』と言うような事言ったでしょ」
「あれ、そんな事言いましたっけ。ごめん。でもそれ、言葉の綾で言っただけで、別にCさんの事を貶した(けなす)わけじゃないのよ。こんな事が、Cさんに知られたら大変だから、頼むね」
「分かっているよ。そんな事、人に言うはずないから、別に気にしなくても大丈夫」
「あれから私も、よく考えてみたんだけど、貴女の言う通りだと思うよ。こんな時期に、そんな所へ、高額な絵を一杯、持って行ったなんて、しかも一人でね。それって、どう考えてもおかしな話だもの。
Cって、昔から、わりと慎重な奴なんだぜ。
そのCの奴が、どういう経緯(いきさつ)で、こんな時期に、福島県まで、行く気になったのかとか、どのようにして、そんなに沢山の絵画を盗られることになったのか、不思議でしょうがないんだよね」
「この不景気でしょ。その上震災でしょ。絵も、最近ではあまり売れないから、高額な絵を買ってやろうと言う話が舞い込んできたら、それがどんな場所からの話であろうと、それに乗ってみようかなと思った所までは理解できない事は無いよ。
でもそんな場所へ、たった一人で、出かけて行った事とか、どのようにして、そんな沢山の絵を一度に盗られてしまったのかといった点がどうも分からないのだよねー」
「それでこの間、たまたま交換会(画商だけのオークションのような所)に行った時、Cが来ていたから、どうしてそのような事が起こったのか、その経緯を聞いてみたんだよ」

 

その3

「ああ、あの話、それ誰から聞いたの。実はその話、あんまり人に知られたくないんだけどなー」とC。
しかしCは、いかにも困ったと言う顔をしております。
「でも、そんなこといっても、もう手遅れだよ。人の不幸は蜜の味とばかり、皆、尾ひれをつけて噂をしているもの。こうなればもう、変に曲がりくねって人に伝わっていくより、きちんとした話が拡がった方がいいんじゃないの」と私が言いますと
「そうかねー。それにしてもDの奴め、口が軽いんだから。あいつに、ちらっと相談したのが間違いだったなー」
「あんたにまで伝わっていると言う事は、もうかなりの人に知られてしまっているんだろうなー。
仕方がないからあんたには話すけど、ここだけの話にして。人には、あまりいわないでくれる?」と言いながら,Cはしぶしぶ話し始めてくれました。

 

その4

画商C氏の話。
あれは震災から2か月くらい経った時のことでした。5月の連休も過ぎた、次の週の金曜日、福島市内の中古車販売業者と称する人から電話がありました。
「2年くらい前から造っていた家がやっと完成する事になりましてね。だから、各部屋に飾る絵を探しているところです。
いろいろな業者さんから、お話は来ているのですが、私としては、どうせ買うのでしたら、東京の一流画廊から、一流の作品を買いたいと思いまして。
そこであちらこちらのホームページを覗いていましたら、たまたまお宅のホームページ見付けました。
さすが銀座の画廊さんは違いますねー。
私が、かねがね手に入れたいと思っていた様な、とても素晴らしい作品ばかりをもってらっしゃいますもの。
そこで、価格次第ですが、出来たら、今度造った家に飾る絵全部を、お宅に任せようと思っている所です。
お宅に来てもらって、私の買おうと思っている絵が各部屋に合うかどうか見てもらってから、決めようとは思っています。所で、ホームページに載っている、千住博の150号のウォーターホール、絹谷幸二の150号の富士山と太陽を画いた絵、20号の菊、富士山と、太陽が描かれている3号と4号、ベルナール・ビュッフエの15号花、東山魁夷の白馬の森、これは版画だったとおもいますが、それらの絵、夫々(それぞれ)いくらくらいのものですか」
というお話でした。
不景気な今時、こんな良い話、滅多にありません。私、嬉しさのあまり、有頂天になってしまいました。その為、その時点で冷静な判断力を失ってしまったようです。
私は早速、「この絵はこれくらい、この絵はこれくらいの価格でお願いしたいのですが」と夫々の価格を提示しました。
すると、電話の主は、「フーン、ちょっと高過ぎだよ。もう少し何とかしてもらえないかね。こんなに沢山の絵を、一度に買うと言っているのだから」
「大体、こんな時期でしょ。絵なんかあまり売れてないんじゃないの。
あんたの所のホームページ見ていても、もう3カ月も同じ絵が並んでいますよ。この際在庫整理だと思って、思い切って勉強してよ」
「で、お宅のお心算では、いくらくらいをお望みですか」
「そうだねー。大体お宅の提示価格の半分くらいかな」
「えっ、そんな無茶な。いくらなんでもそれは無理ですよ。どんなものにも原価と言うものがあります。それを切って売っていたのでは、お店は潰れてしまいますからね。
うち、今のところ、そんなに慌てて売らなければならないほど、困っていませんし」
「所で、貴方の所の絹谷、150号の絵、あれって、本物?
ちょっとサインが違うとおもうんだけど」
「大丈夫です。間違いありません。買った後、先生に確かめてありますから」
「だったら、保証書か、鑑定書がつくの?」
「いいえ、絹谷先生の場合は、作家による保証書も、鑑定書もつきません。しかしあの絵は、先生がまだ若かった時、ある展覧会へ出品された、記念すべき作品だったと言う事です。
購入した時、あの絵を先生にお見せした所、先生、とても懐かしがってくださいまして、その時のお話をしてくださいました」ご心配でしたら、先生を御紹介いたしますから、直接先生に聞いていただいてもかまいませんが」
「と言う事は、先生が若い時の作と言う事?だったら、円熟した時代の作品より多少市場価値が低いのと違う?」
「必ずしもそうとばかりは言えません。しかし、あの作品の場合は、その点も考慮して、多少お勉強した価格設定にはしてありますが」
「しかしこの作品は、絹谷先生が展覧会に出された時の、記念すべき作品です。そういった意味では、コレクターによっては、若作であっても、高い価値を認める場合もあります。その場合は、思わぬ高値で取引される事もある作品です」
「フーン、そうかなー。私には、もっとお勉強してもらっても良いように思う作品だけど。まあいずれにしても、その絵か、千住のウォーターホール150号か、どちらかの絵を、家のリビングに飾るつもりなんだけど、それも一緒に、持ってきて。
今度の家に、どちらが合うか,貴方にも、見てもらってから決めたいと思うから」
「お客様、申し訳ありませんが、150号の絵ともなりますと、大き過ぎまして、簡単に車で、持ち歩くという訳にはまいりません。
今回は、他のご購入予定の作品の方をまずお持ちいたしますから、その時、お宅も拝見させていただき、やはりどちらかをご購入下さると言うことでしたら、持参させていただきたいと思うのですが、それでは駄目でしょうか。
なお、お値段の方は、お宅のおっしゃるような金額まで、下げる事はできません。出来る限り、お勉強はさせていただく心算ですが」

次回へ続く

No.141 電気自動車って本当に経済的なの?環境に優しいの?

閑話休題

今連載中の「虎穴に入っては・・・」の続編は、数日後に掲載させていただく積りですが、その前に、幕間として、電気自動車についてのお話を載せさせていただきましたので、一息ついてお楽しみください

1)始めに
こういうお話は、計算の基礎となる数値が、前提条件によって、異なります。
従って選択されている数値は、計算する側の人間の立場によって、恣意的に操作される可能性もあり、政府当局者だとか、電気自動車の研究、生産、販売に関わっている人達、電気自動車の普及に努力していらっしゃる方々といった人達のお話には、百パーセント信頼できないものもおみかけします。
そうは申しましても、車についての知識も持たず、化石燃料等の燃焼によって生ずる、炭酸ガス排出量についての、独自のデータも持ちあわせていない素人の私の話などに、どれほどの信憑性があるかと言われれば、これ又反論のしようがありません。
何しろ本文は、パソコンから拾ってきた、僅かなデータに、車については素人にすぎない私の、私なりの考察を加えて、値を割り出し、それをもとにして、導き出したものにすぎませんから。
従って、本文は、今現在、電気自動車の購入を考えていらっしゃる方々への、一つの参考意見の提供程度のものと考えていただいた方が無難かもしれません。
なお、本文は、電気自動車を推進する立場でも、電気自動屋に反対の立場でもない、一消費者の、中立的な立場に立っての意見ではあります。

2)電気自動車は、ガソリン車より経済的に優位か
①1キロメートル走行するに要する電気自動車の電気料金
1kwh当たりの電気料金については、
イ:電力会社によって異なります。
ロ:利用する電気の時間帯によって異なります。
即ち深夜電力を利用するか否かによっても異なります。
それに、基本料金だとか、燃料調整金の加算、使用量の増加による加算等を勘案
する必要がありますから、一つの数字で正確に表す事は出来ません。
したがって、凡(おおよそ)その値しか出す事ができませんが、
以下のような数値が妥当ではないかと考えます。
(24年2月現在  中部電力の場合)
一般従量電力利用:(深夜料金契約無)24円~24.5円/kwh
深夜料金の利用 :         9円~9.5円/kwh
註:甘めに見て、これ以降の計算には24円/kwhと 9/kwh の数字を採用してある
ハ;電気料金は原子力発電所の再稼働無しの場合、今後大幅アップの可能性がある
ニ:電池容量:、24kwh(日産リーフの場合)
ホ:一回充電時の料金=深夜料金でない場合・・24×24=576円(24円/kwhとして)
深夜料金を利用時・・・9.×24=216円(9円/kwhとした時)
ヘ:一回の充電で走る事が出来る距離
走り方、スピード、道の状態にもよりますが大体100~120キロメートル
ト:従って1キロメートル走行するための費用=1.8円~2.2円(深夜料金のみ利用時)
ないし=4.8円~5.8円(一般従量電力使用時)

②電池の料金
現在の所電気自動車に使われる電池の料金は非常に高額で
5~10万円/kwh と言われております。(最近は量産効果が出て5万円/kwh位とかなおごく最近の情報では、3万円/kwh の韓国製、製品が出てくるとも言われています。)
なお電池の寿命は、現在の所、せいぜい 1000回から1500回といわれています。
従ってそれも走行するのに要するコストとして計算に組み入れる必要があります。
今回の計算では、電池の代金を5万円/kwh、充電回数には、最大回数である、1500回をもちいてあります。
すると、走行距離1km当りに要する電池のコストは
(50000×24)÷(1500×100ないしは120)=8 ないし6,7円/走行距離km
③よって、電気自動車の走行1km当たりのコストは
1.8~2.2 +6.7= 8.5~8.9円(全てを、深夜料金利用時)1充電で120km走行時
ないし・・・+8=9.8~16.9円 (同上)   100kmしか走行出来ない場合
4.8~5.8 +6.7= 11.5~12.5円(全て、一般従量電力利用時)120km走行時
ないし 19.5~20.5円  100kmしか走行しない場合

註1:ガソリン車でも、バッテリーは使っていますが、価格が定額で、走行
時のコストに影響を及ぼすほどではないので省略してあります。
註2:電池以外の車体コストの走行1km当たりのコストについては、
電気自動車と、ガソリン車の間に、さほど差がないものと仮定して
本計算においては、省略しました。
またエンジンオイルのコストについては、ガソリン車の場合、電気自動車より余計にかかる可能性は強い。
しかしそれについてのデーターの持ち合わせがなかったので
それに代わるものとして、ガソリンの価格を実勢価格より
2~3円/L高く見積もりました。
註3:1kwh走行に要するコストは家庭に急速充電器を設置すると、非常に高くな
ります。一説には設置費用は200万円くらいかかるとも言われております。
2kwのコンセントを新設すれば充電に時間はかかるが、可能ではあるとの由につき、これも計算にいれなかった。なおその代わり、もっとも安価な深夜短時間特別割引は使えません。
註4:市中での充電については、現在普及期間中故、無料ないしは一回100円程の低料金となっております。しかし普及してくると有料となります。
その場合、政府の補助の程度がどれくらいあるかによって変わりますが、それが無かった場合は、スタンドの設備費、維持費、そしてスタンド側の利益が上乗せされますから、かなりの高額になる可能性があります。
一説では電気料金の数倍はとらないと引き合わないとも言われております。
④ガソリン車が1km走行するのにかかるコスト
走行する場所(市内か市街か、坂道が多いか平坦か、舗装道路か否かなどなど走行の仕方(経済速度での走行か否か、アクセルとブレーキの頻用度など)によって異なります。
一応日産リーフと同程度のガソリン車を対象にして考えますに、
ガソリン1リットル当たりの走行距離は、13から15キロくらいと言われております。現在ガソリン代金は、137円~138円/L・・・エンジンオイル代金を勘案し、ここでは140円/Lとしますと(24年2月20日の価格)
  ガソリン車が1km 走行するのに要する費用は
140÷13~15=10.7(13km/L走行時)~9.3 円/km (15km/ガソリン1Lの走行時 )
⑤ 以上の計算から、深夜料金のみを使った場合

イ)走行の場所、走行の仕方によっては電気自動車の方が、やや低料金
で走行できる可能性はある。
ロ)しかし、ガソリン車においても、その経済速度での走行を行った場合、
電気自動車との差は僅かでしかない。
ハ)一般従量電力での充電を混用すると、数回それを行っただけで、
殆ど差がなくなるどころか、
場合によっては、電気自動車の方がむしろ走行距離当たりのコストは
高くなる場合も少なからずある。
何の補助もない市中の急速充電装置を使わねばならなくなった場合は、
ガソリン車より、かなり高額となる可能性もある。

註①:なお電気料金、ガソリン価格とも、現在非常に流動的で、今後かなり
上昇していくものとおもわれます
註②:蓄電池の性能、価格は今後急速に向上、低下すると思われるので
電気自動車1km 走行距離当たりのコストも急速に低下する可能性が大であ
る。その数値によっては、電気自動車の優位性は高まる。

3)炭酸ガス排出量の比較
①電気自動車の場合
一般に電力、単位kwh当たりの炭酸ガス排泄量は
その発電が依存するエネルギー源、すなわち、水力か、火力か(天然ガス、石炭、石油等の化石燃料)原子力か、風力か、太陽光かなどによって大きく異なります。
その為、その値は、電力会社によって大きく異なっております。
東北大震災以降、各電力会社とも、原子力発電への依存度は大きく減少しておりますから、現在、各電力会社の1kw発電当たりの炭酸ガスを排出量はかなり増加していると
思われますが、そのデータは、今の所みつかりませんでした。
なお、東北大震災前のデータによりますと、東京電力は384グラム/KWH、中部電力474グラムKWH、沖縄電力931グラムKWHでした。
この数値から推定しますに、原子力による発電が殆ど見込めない現在では、その数値は沖縄並かそれ以上の値、即ち、900gr/kwh以上となっている可能性が強いと思われます。
今後の原子力発電の幾許かの再開だとか、また風力、太陽光発電といった自然エネルギーの増加をおり込み、中部電力並の炭酸ガス排出量と仮定して(実際はおそらくもっと多くなると思われますが)計算しますに、
(註:政府のエネルギー政策の行方がわからない今日では、非常に大胆な推理によるものなので、この数値は大きく変わる可能性があります)
走行距離 1km当たりの炭酸ガス排出量は
24×474÷100~120=113.7~94.8グラム
である
仮に原子力発電が殆ど利用できず、自然エネルギーの利用も殆ど進まなかった場合は、
沖縄並の930を考えざるを得ませんが、そうなりますと
電気自動車 走行距離 1km当たりの炭酸ガス排出量は
24×930÷100~120=223.2~186グラムとなる

②ガソリン車の場合
ガソリン1リットル当たりの炭酸ガス排出量は2300グラム
従ってガソリン車、走行距離1km当たりの炭酸ガス排出量は
2300÷13~15=176.9~153.3gr/km

以上から考えられる事は、炭酸ガスの排出量に関しては、政府のエネルギー政策に関係する所が大で、非常に流動的であり、原子力発電が止められたままの、現在の段階では、電気自動車の方が必ずしも環境に優しいとは言いきれない事を表しております。
なお、電気自動車の排気ガスが零であるかのような錯覚を起こさせるような文言を時々見聞いたしますが、そのような事はありません。
確かに、電気自動車では、走行している際、直接排気ガスを市中に撒き散らす事はありません。
しかし電気自動車においても、その動力源である電力は、それを発電する際、今の所、化石燃料に大きく依存しています。従って、排気ガスの排出が零とは言えません
只その排出場所を、個々の自動車ではなく、発電場所に集中させているにすぎません。
註①:窒素酸化物、硫黄酸化物といった排気ガスに含まれる有害物質について
これについても考慮すべきと思われる人もいらっしゃるかもしれませんが、
最近の車においては、排気ガス対策が厳重に施されております。
又火力発電所においても、公害対策が行きとどいております。したがって、
それらについては比較の対象からはずしました。
註②:原子力発電所の事故におる影響については、今の所、被害額だとか、起こりうる
頻度の計算データがないので、計算のしようが無く、今回は除外してあります。
しかし東北大震災によって引き起こされた、福島における原発事故の被害の大きさと悲惨さから考えたとき、それらも考慮し、さらに、廃炉に掛かる費用、核廃棄物の処理に掛かる費用迄計算に入れた場合、原子力により発電される電気の料金は、今迄考えられていたのとは、比較にならないほど高額なものとなる可能性を否定できません。

4)結論
今の所、経済的にも、炭酸ガス排出量から考えても、ガソリン車に比べ、電気自動車の方が優れているとは言いきれる状態ではありません。
今後、電気自動車が、環境に優しい車として、社会に認知され、市中において見かける普通の車となっていけるのか、それとも、より環境に優しく経済的な車(たとえば、燃料電池車だとか、水素だけで走る車)が出現するまでの繋ぎで終わってしまうのかは、今の所未知数だと思います。
現在行われている電気自動車発売ブームは、より環境に優しい車を生みだし、普及させていくため、一般大衆を巻き込んで行われている社会実験の一つではないでしょうか。
だから今直ちに、電気自動車を購入しようとされている方は、そのような社会実験に積極的に参加し、ブームと言う風を背に受けながら、時代の先端を走りぬけようとしている先端技術開発の手助けをしているのだと考えてください。
そこには先端技術開発に役立っているという誇りと喜びがありますが、反面、一時のブームに煽(あお)られて、高い玩具を買わされてしまったという、苦い後悔が待っている可能性だって否定できません。
電気自動車の購入を考える際は、その事を、熟知の上、購入の可否を決めていただきたいと思っております。

終わり