カンヌ映画祭で、柳原優弥さんが14歳で最優秀男優賞を得られたとかで、話題になっています。しかし昔から子役が活躍する映画では大人の俳優が喰われてしまうといわれていますように、子供の無邪気で純真な演技は可愛らしく、私どもの心を大きく揺さぶってまいったものです。
現実の世界では、今の子供たちはませて、とても扱いにくいといわれようになっております。しかしそうは申しましても、私どもが接する子供たちの大半は、まだ無邪気で可愛らしく、見ていると微笑ましく感じる事が多いようにおもいます。
先日のことです。私の乗っていたバスに、小学校一年生くらいの女の子が、5歳くらいの多分妹だろうとおもわれる女の子の手を引いて乗ってまいりました。私も小さかった頃、時々妹のお守りをしながら、お使いにやらされたものでしたから、自分の子供時代が思い出されて懐かしく、興味深く眺めておりました。
お姉ちゃんと思われる女の子の方は、やや長い髪、色白、細面で、頚の長い、すらりとした背丈をした、少女雑誌に載っているモデルさんのような感じのお嬢さんです。目はそんなに大きくありませんが、きりっとして、とても澄んでおり、しっかり閉じた、いかにも意思の強そうな小さな口と一緒にとても印象的な顔立ちです。
妹さんらしい女の子の方は、おかっぱ頭で、丸顔、のんびりとした、人なつこそうな感じのお嬢ちゃんですが、そのあどけないお顔は、いかにも悪戯っ子(いたずらっこ)らしく、くるくる回る大きな目はあちらこちらの影を追って、一時も一所にとどまっていません。座席に座ってからも、じっとしていず、お姉ちゃんがちょっとでも手を離そうものなら、すぐ座席を離れてどこかに行ってしまいそうな様子です。お姉ちゃんはそんな妹の手をしっかり?まえながら、いかにもお姉ちゃんらしく、注意をしたり、なだめたりしていたようでした。二区間くらい乗ったところで、その姉妹は降りていったのですが、降りる時、バスの運賃を払おうとしたら、親からバス賃として渡されてきた金額と、本当のバス代金が違っていたようで、姉の方が、しっかり手に握っていたらしいバス賃を、そのまま払おうとしましたら、車掌さんから何か言われたようです。私は遠くからそのやり取りをみていただけなので、内容はわかりませんでしたが、お姉ちゃんがあわてて自分のお財布を小さなバッグから出してお金を払おうとしていました。するとまた車掌さんから何か言われ、聞き返すような仕草をした後、お財布をバッグにしまいこみ、手に握ったお金を差し出します。ところが何処が違っているのか、車掌さんはそのお金を受け取らずに、また一言二言その少女に向かって話しかけます。するとその少女はまたあわてて財布をバッグから引き出して何かいいながら、お金を取り出そうとします。あわてて財布を出したり入れたりする仕草はとてもあどけなくて可愛らしいのですが、車掌さんに応対しているその姿や、顔つきは、いかにもきりっとしていて、一人前の女性のようです。
一方小さな少女の方はおねえちゃんのスカートの裾に捕まりながら、くるくる回る目でそのやり取りを見上げているのですが、お姉ちゃんの緊張した顔を見て、今にも泣き出しそうな顔です。こうして3回くらいやり取りがあった後、最後は車掌さんが、お姉ちゃんの最初に差し出したお金をそのまま受け取ってくれ「それでいいから降りていってもいいよ」というふうに出口を指差して手を振りました。
お姉ちゃんは「ほっと」したように、バッグを左手に妹の手を右手に掴みながら降りていったのですが、その降り際、乗客一同の方に向かって「お時間をとらせてすみませんでした」とでもいうように深々と頭を下げたのです。
そして妹の方もおねえちゃんから何か言われたのか、お姉ちゃんに続いてぺこりと頭を下げて降りていったのですが、そのおねえちゃんの姿はいかにもさわやかで、また妹の方はいかにもあどけなく、二人が降りて行った後も、しばらくの間、バスの中は涼風の吹いた後のような清清しさ(すがすがしさ)でした。
それはまるで藤田嗣冶の絵画の中に出てくる少女像でも見ているような感じでした。「いまどきの子供は」という人もいらっしゃいますが、こんないい子もいるのですもの、まんざらでもないですよね。それにしてもこの子達の親御さんは、さぞかし立派なお方なのでしょうね。