No.42 意地悪姉ちゃんとおやんちゃロビン

早いものでロビンが来てからもうそろそろ2年、少しは大人しくなってきてもいい頃だとは思うのですが、残念ながら少しも変わらず、相変わらず遊び大好き、悪戯大好きで暴れまわっています。
しかもその悪さには知恵がついて、年季が入ってきましたからかないません。以前は靴下を盗って逃げる際も、盗った後は咥えて、ただ逃げまわっただけでしたが、最近では盗って逃げた後、こちらが追いくたびれて、諦めると、また目の前まで持ってきて、見せびらかします。「返して」というと、嬉しそうにまた持って逃げ去ります。それがしつこいのです。何度でもやってくるのです。こちらも忙しいものですから、いい加減なところで相手をやめ、知らぬ顔をしていますと、ロビンも目の前まで持ってきて放りだしておきます。そこで取ろうと思って手を伸ばすと、待っていましたとばかり再び、さっと持って逃げます。従って取り返すのは、速さ比べ、知恵比べです。何しろこちらの遣ることをじっと観察していて、先回りしてからかってきますから油断がなりません。お手伝いの小母さんなどは、仕事中に、雑巾やら手袋やら、箒、スリッパなどなどを先回りして持って走られ、いつも追いかけっこしています。新聞などを読む時も気をつけないとやられます。
持ってきて机の上に置いておいて、ちょっと他の事をするために立とうものなら、大変です。もう新聞はありません。ロビンが椅子の上に上がり、さっさと新聞を持って走り去ります。
こうなると、もうなかなかつかまりません。追い掛け回した末、やっと返してもらっても、返してくれた新聞はあちらこちらが破れてくしゃくしゃです。雑誌などを読んでいるときなどはもっと悪知恵を使います。私の足元でじっと見ていて、チャンスをうかがっています。読みつかれて膝の上に本を乗せるまでじっと狙って待っています。そして私が雑誌を膝の上に持っていきますと、「待ってました」とばかりに寄ってきて、そろりそろりと雑誌をひっぱり始めます、その時、緩めに持っていようものなら、さっと盗って逃げ出します。こちらが困るものをちゃんと知っていて、それを狙うのですから困りますよね。それにしても、気配を察して、その前に行動するさまは、武道の達人のようです。
お風呂やブラッシングなどはもうこちらがしようと思っただけで、気配を察して自分の小屋に立てこもってしまいます。したがってこちらもあまりにうるさく遊んでほしがるときは「ロビンちゃん、風呂はいる」とか「ブラシ、ブラシ」といってからかってやります。するとさっと小屋に逃げ込んでじっとこちらのほうを窺っています。しかしよく観ていて、その後本当に風呂に入るような動作をしないと「バレバレですよ」とばかりすぐに戻ってきてまた悪戯をしはじめます。
散歩はとても大好きです。私が散歩用の服に着替えたり、鍵を持ったりしようものなら、もう察して大騒動です。
「ワン、ワン、行こうよ、行こうよ」と誘って玄関に走り出します。私も意地悪ですから、時々知らぬ顔をしてもう一度椅子に座り込んでやります。すると膝の上に飛び乗ってきて、耳をベロベロ舐めてきながら、「クイーン、ムニャ、ムニャ、クイーン」と身体をくっつけて甘えてきます。「あなた様が一番です。チュキチュキ」といっているようでとても可愛らしく、つい目尻が下がってしまいます。しかし実際にはして欲しいことがあるときだけの媚態なのですが。散歩は町内を一周させてやります。しかしそれだけではエネルギーが余るようですので、朝晩の人のいないときを見計らって、公園の中を走らせてやります。
最近では、公園の中にある、忠魂碑の石垣の周りを(大体一周30m位あります)ロビン一人で廻ってくれるようになりましたから大助かりです。大体8周から9周させています。するとこれで満足して、大概は大人しくしているようになります。それにしても、ロビンと付き合っていると、そのしぐさがあまりに面白いので、ついついからかってやりたくなってしまいますから、こちらもいけないですよね。しかし澄んだ瞳をこちらに向け、「ご主人様は、今度は何をするのかな」とばかり、首を少しかしげながらこちらじっと見つめている様子は、とても可愛くて、ついついちょっかいを出したくなってしまいます。
ちょうどよちよち歩きの幼児をからかっているようでとても面白いのです。たとえば散歩に連れて行って欲しい時など、一生懸命こちらの機嫌をとって、何とか連れて行ってもらえないかと、媚を売ってきます。こんな時、こちらも意地悪して「散歩にいきたいの。でも今は忙しいから後で行こうね」などといって、出かける真似だけして、そのまま座り込んでしまい、知らぬ顔をして、新聞などを読みだしてやります。すると「嘘つき」「なんで今頃、そんなもの読み始めるの」とばかり、ドーン、ドーンと飛び上がりぶつかってきて新聞を奪いにきます。こちらがびっくりして、思わず新聞を持っている手を離してしまいますと、さっと新聞を盗って遠くの方へ持っていってしまい、そこから狐のような目をしてこちらをじっと窺っています。
また緑のガム(葉緑素の入った犬用のガム)が大好きなものですから、これもからかいの種にしてやります。まず一本与えておいて、それに齧り付いた頃を見計らって、もう一本を与えてやり、「ちょうだい、返して」といってやりますと、「盗られてたまるか」とばかり持って逃げようとするのですが、二本とも持って逃げる事はできません。それでも二本とも持って逃げようとするものですから、ドタバタします。一本目を咥えている上に、もう一本咥えようとするのですが、そうすると前に咥えていたほうがするりと抜け落ちてしまいます。それでもその落ちた方を、また一緒に咥えようとするのですが、うまくいかず、そのためにアタフタしています。
何とか二本とも持って逃げようと焦って格闘している様は、何度見ても面白くて、ついつい何度でもからかってやりたくなってしまいます。

最近発見したからかいの種は、犬小屋の取り合いです。実はロビン、折角買ってやった犬小屋を殆ど使わず、玄関の土間で寝ていることが多いのです。
ところがあるとき犬小屋に頭を突っ込んで掃除をしていましたところ、私がちょっと頭を出した拍子に、さっと入り込んで、もう一度頭を突っ込もうとすると、口と前足をもってきて、「入ってきちゃ駄目」といわんばかりに邪魔をして来ました。「入れてよ」といいましても、小屋の中の入り口近くにどっかと座り込んで、入れてくれません。諦めて部屋の方に戻ってきましたら、ロビンもついてきます。そこで「これはチャンス」ともう一度小屋のほうに戻ろうとしましたところ、その気配を察したロビンが、さっと先回りして小屋に入ってしまいます。それ以降、暇ができると犬小屋の取り合いをしています。相手も去るもの、こちらの気配を見ていて、いつも私より先に小屋に入って、私を迎え撃ちます。
「コリャ、入れてよ。入れて」と言って手や足を突っ込んでやりますと「駄目、駄目、駄目」とでもいうように、口を使って懸命に対抗してきて、絶対に明け渡しません。結構欲張りです。
気に入らないと一人前に文句を言う時がありますから余計にいじめがいがあります。散歩の時など何度注意をしておいても、自分の興味を惹くことが出てきますと、注意されていたことなど忘れてしまって、綱をぐんぐん引っ張って歩き出します。こんなときは道の端、側溝の近くを歩いてやり、引っ張っていた綱を突然に緩めてやります。すると一瞬よろめいて、側溝に落ちそうになるのですが、そうしますと、生意気にも、ぱっと後ろを振り向いて「危ないでしょ」とでもいうように「ウワゥ」と言って文句をいいます。
そこで私が「貴方が引っ張るから、いけないのでしょ。引っ張って駄目」といってやりますと、わかっていてか、わからなくてしているのか、しばらくは私の横を歩くようになります。この文句を返してくる仕草が、なんとも面白いものですから、散歩に行く度に、ついいじめてしまったものです。しかし最近はロビンの方も利巧になってきまして、よほどのことがないと、よろめかなくなってしまったので少し残念です。もうひとついじめがいがあるのは、やきもちを焼かせてやる時です。

前にも申しましたように、ロビンちゃんはとてもやきもち焼きです。ぬいぐるみでも、肩たたき棒でもちょっと大事そうにわたしがしていますと、もうやきもちを焼いて大騒ぎです。それですから、もっといじめてやろうと思って先日電動仕掛けの犬を買ってきてやりました。その犬は「ワン、ワン」と啼きながら、前進、宙返りなどをします。それをテーブルの上において、動かしてやりますと、もう大変です。どんなに遠くにいても、そのテーブルのところまで飛んで戻ってきます。そして1メートルくらいも跳びあがりながら「ワン、ワン、ワン」と噛み付きそうな顔をして吠えます。
更に追い討ちをかけて「オー、よし、よし、よし、チビちゃん、可愛いね」といいながらおもちゃの犬の頭をなでてやりますと、もう悲鳴に近いような声に変わって、跳びあがり跳びはね、私の脚にぶつかり、それでも相手にしてもらえないときは、机の上のおもちゃを飛び上がって落とそうとします。その吠え方は本当に真剣で、少し経つと声が嗄れてしまうほどです。
これほどになるとさすがにこちらも可哀想になって「ロビンちゃん、可愛いよ。可愛い、可愛い」といいながら抱きしめてやるのですが、しばらくは腕の中でぶるぶる振るっています。やはりよほど興奮しているのでしょうね。何しろこの犬にとっては、自分が家の中心にいて、皆の愛と注目を一身に集めていないと我慢がならないようなのですからね。こんな話をしますと、「そんなことをしていると、そのうちに噛み付かれるよ」と忠告してくれる友もいますが、私とロビンちゃんの信頼関係はそんなもので崩れるものでないと確信してメロメロに愛しています。

それにしては、ちょっとやりすぎでしょうかね。愛の形が少しサドっぽいですかね。だったらロビンちゃん御免ね。