No.25 ごめんなさい。親ばかになっちゃいました。

以前どなたかの随筆で『自分のペットに向って「おかあちゃんはすぐ戻ってきまちゅからね」とか「もうちょっと待っててね。すぐご飯作ってあげまちゅからね」などと言っているのを見聞きすると、この人は馬鹿かと思ったものでした。ところがひょんな事から子犬を買う羽目になり、自分で飼うようになってみたら、もう可愛くて「待ってたの。ちゃびち(さびし)かった」「おとうさんが今ちゅぐ(すぐ)ちてあげましゅからね」といった馬鹿にしていた「ちゅぐ」ことばや、ペットに対して自分の事をおとうさんと言っている自分に気が付いて苦笑いを禁じ得なかった』というような事を書かれているを読んだ事があります。
確かにペットの可愛さというものは飼った人にしか気持ちが分からないというのが正解なんでしょうね。

ところで先日このページで私どもの愛犬アーサーの死について掲載させていただきましたところ、私事にもかかわらず沢山の方々から励ましのメールをいただきまして本当にありがとうございました。おかげさまで本当に力づけられました。
さてその時は「もう二度とペットを飼うのはやめよう」と決心していたものですが、ある方から「シェルティの子犬を差し上げたいと思いますがいかがでしょう」というお申し出をいただいたのです。
愛犬の死以来落ち込んでいる私を見ていた従業員達は「社長、それはもらうべきですよ」と申します。
随分迷ったのですが一応家族で相談して決める事にしました。父はあまり乗り気でなく「お手伝いのおばさんに余計な面 倒をかける事になるし、それに自分も歳だから自分の方が先立つ可能性が強いから嫌だ」と申します。
しかし妹は、アーサーがいなくなってから何かと寂しそうな父の姿を見ているものですから「このままでは身体に悪いと思うわ」「ちょうどくださるという人が出ていらっしゃったのは、これもご縁だから絶対もらった方がいい」「お手伝いのおばちゃんには私からお願いするから」と強くいいます。
弟夫婦は「もし万が一の事があったら、最後は私たちが面倒見るから飼った方がいい」と申します。

もともと犬好きの私の事、そうまで言われると心が動きます。ちょうどアーサーの死の悲しみも少し薄れてきた時でも有り、意を決していただく事に決めました。 こうして子犬が我が家の一員になりました。
名前ですが、前に飼っていたアーサーの名前をもらってアーサー二世としようかと提案したのですが、父は前の犬の記憶が強いから嫌だと申します。私がもらって来たのだから「ロミ」としてはどうかと妹が言いますと、弟の嫁は画廊にちなんで「ミロ」の方が良いのではと申します。
妹の旦那はピーターパンのピーターはどうでしょうかと提案します。結局最後は父の意見で「ロビン」と言う事に決まりました。
ロビンは今生後三ヶ月です。内弁慶で家にいる時はとてもワンパクで悪戯好き、そして知恵者です。家の中ではもう小ねずみのようにタカタカ、タカタカと駆け巡って悪さを繰り返すのですが、外に連れ出すと途端に憶病者、抱いている私の胸にしがみついてブルブル震えています。自動車にのっている時も「クーン、クーン」と心細そうになきながら、私の身体にぴったりと身体を摺り寄せて震えています。
道を歩かせようと思って道路におろしますと、何もこない時は元気に歩いているのですが、車や自転車がやってくると恐ろしくなって道に座り込んでしまいます。
やむなく抱っこしてやると、もうこの世であなただけが頼りとばかりしっかと抱き着いてきます。
ところがこれが一旦家の中に入ると人が(この場合は犬が)変わったように、我が物顔に走り回り、頭を撫でてやろうにも撫でさせません。
呼ぶと側まで来るのですが、触らせないのです。無理して捕まえようとしても、気配で察してパッと逃げてしまって捕まりません。そのくせ私の後を慕って足に絡みついてくるのです。
「いや、やめて」と何度言っても足にじゃれ付くので、スリッパはボロボロ、ストッキングは次々デンセンが入ってしまって大損害です。
この間などパソコン通信している最中に突然不通。何かと思ったら、ロビンが電話線を噛み切ってしまっていたのです。叱ってやると、少しの間は自分の小屋に逃げ込んで神妙な顔をしているのですが、それこそ三分も経たないうちに又出てきて次々悪戯をやらかします。
父などはロビンがいるといつ何をするか分からないので気が休まらないとこぼしています。
しかし「それならもらって来て迷惑だった」と聞きますと「飼ってみれば可愛いわなぁ」とまんざらでもなさそうで、餌やりながらトイレのしつけまで一切を引き受けて世話係をしています。
そのせいか最近はなんだかやはり若返ったようです。「老犬を見ていた時は自分の老いと向き合っているようで寂しい事が多かったけど、子犬はこの家に活気とパワーを運んできてくれたような気がする」と申しております。従って猫可愛がりに可愛がって、何かと間食を与えようとします。「そんなに与えるとデブになって成人病で早死にするからダメだよ」とセーブするのに大変です。
そうは言うものの、私も休みで家にいるとつい食べ物を与えてしまい、今度は父からたしなめられています。
父は「自分がいなくなった時、芸は身を助ける事になるかもしれないから」と冗談半分に言いながらせっせと色々な芸を教えているようです。
「とても頭の良い犬で飲み込みが早い」と父は感心しています。
そのせいか数日経つ毎に芸の数が増えていきます。お座り、伏せ、お預け、お手といった基本芸は無論の事、ジャンプとか、物を投げてそれを拾ってくる、紙の皿を空中で受け止める等と言った事もします。
「立っち」というとプレーリードッグのように半立ちで立ちます。食べ物でつると、それにつられて二本足で歩きます。(まだ1mくらいですが)
最近覚えた芸は座っていて「おいで」といってひざを叩くとこちらのひざの上に飛び乗ってきてしがみつく芸です。
しっかとしがみついて来るのをだきしめてやると、もう身体の中から愛しさが込み上げてきて 、「よちよち良い子でちゅね」といった「でちゅ」言葉が自然に出てきてしまいます。
知恵もついて、悪戯も次第にエスカレートしてきました。仕事をしている間、遠ざける用に作っておいた柵など、最近は押したり引いたりして、隙間を作りいつの間にか遁走してきます。書類などちょっと低いところに置こうものなら、飛び上がってパッと手で払い落とし、落としたかと思うと口にくわえてサッと逃げ出します。
こちらが追っかけますとそれが嬉しいらしく小ねずみのように机の下、隣の部屋と逃げ回ります。それが早い事、この間など夢中で追い駆けているうちにこちらが頭を打ってコブを作ってしまいました。
たいして重要でないものを盗って逃げた時など、こちらも面倒なものですから知らない顔をしてやります 。するとわざわざ目の前まで持ってきてワンワンと呼びかけ遊んでくれと催促します。
遊び道具としては、スリッパと、ゴルフの練習用穴あきボール(プラスチック製)が大好きです。そのボールを与えてやりますと、カラカラ、カラカラと転がしながら、猫が獲物を捕って遊ぶのと同じような様子で追っかけます。
スリッパは油断していると履いているものでもサッと奪って逃げます。ましてちょっと脱ごうものなら、もうそこから消えてありません。 追い駆けるととても嬉しそうに逃げまくります。
こちらも忙しいものですから途中相手にするのをやめてしまいます。するとわざわざ目の前まで持って来て見せびらかします。
「返して」と引っぱってやるともう有頂天、子犬同士が餌の奪い合いをする時のようにウーウーうなりながらいつまでも食らい付いてきます。
無理して取り上げ、顔をコツンと叩いてやりますと「悔しい」といった顔で側にある、椅子の座布団のひもに噛み付いています。
服など着替えようものなら、服の袖は引っ張るわ、洗濯物をたたもうとするとかっさらって逃げるわ、掃除をしようとするとモップに噛み付くわで家にいると仕事になりません。
ホッとするのはロビンが遊び疲れて寝ている時だけです。夜遅くになるとさすがに遊び疲れるとみえて、私が本を読んでいる時足下に来て眠りはじめます。
これが生意気にも暖房の前まで足拭きを引っ張ってきてそれを座布団代わりにその上で寝ているのです。
こんなところは猫そっくりです、犬の癖に変でしょう。
しかしその寝顔の可愛い事、ついつい安眠を妨げてやりたくなって突付いてしまいます。
ロビンのおかげでアーサーを亡くした悲しみは少しづつ薄れてきています。これも励ましのメールをお寄せくださり、再びペットを飼う事を薦めて下さった皆さんのおかげです。本当にありがとうございます。
では又機会を見て、ロビンの成長記録をご報告させていただきます。