No.21 愛犬アーサー

 私の家の愛犬アーサーが死にました。シェットランドシープドッグの雄犬です。
享年14歳、人間の歳で言うとざっと68歳から70歳位でしょうか。前日までは少し咳はしていましたが、まぁまぁ元気そうで、夜の食事も普通 に食べ、散歩も普通にして帰ってきたのです。

 ところが朝起きてみたら眠ったような格好のまま冷たくなってしまっていました。
とても気のいい犬で人間は誰でもいい人と信じ、どんな人でも呼べば一応は尻尾を振って愛敬を振りまいているような犬でした。
でも頭はとても良く、お座りお回り、お手、伏せなどいった普通 の犬がするような芸はいう間でも無く、その他にもお願いしますとか(何かやって欲しいときは地面 に擦り付けるようにして頭を下げる動作をする)、新聞を持ってくるとか、餌のおねだり(食事の皿を持ってくる)とかいった事もしました。
 特に相手になっていて面白いのは「お利口」と聞くと「オウ」といって答えること、名前を呼ぶと「ワン」とお返事する事です。試しに「あんた馬鹿」と聞くと返事をしません。
得意技は食後の歯磨きと塀渡り。まるで猫のように塀の上によじ登り、狭い塀の上を伝って歩きます。その為時々遁走しては私達を困らせました。歯磨きは最初は私がいつも磨いてやっていたのですが、それがとても気持ちよかったのか、それをしているうちに食事の後はすぐに庭に降りて龍舌欄の葉横を使って上手に歯磨きします。
 人前ではとても従順そうですが、結構自分というものを持っていて、我を通 そうとするところがあるのです。
 例えば塀を渡って外に逃げた時など、外であった時にこちらが呼んでも知らぬ 顔をしてさっさと行ってしまいます。

 ところが一時遊んでくると、ちょっと悪びれた顔をしながらちょろちょろっと尻尾を振り振り、玄関の所を行ったりきたりして入れてくれるのを待っています。
自分の好みで無い人に呼ばれたときなども一応は尻尾を振り振り、そばには寄って行きますがその態度はあくまでよそよそしくちょっと一撫ぜしてもらうと、すぐ離れてしまいます。
またそんな人がくれた食べ物はそのとき口にくわえるのですが、そのまま持って帰り、途中で口から離して捨ててしまうのです。

 この犬は元来は家の外で飼っていたのですが、最初は上がりかまちのところに座って遠くから様子を見ていて、「ダメ」といわれるとすぐに下りるといった事の繰り返しでしたが、くり返しているうちに、いつの間にか黙認されるようになると、今度はそろりそろりと床の上を這いながら、段々居間の中央付近までやってくるようになります。見つかって注意すると、あわてて上がりかまちのところまで戻って、「私は何もしてませんよ」といった顔をしてちょろちょろと尻尾を振ります。

 そんなこんなのうちにいつの間にか我が家族の一員とばかり、今では 私達の間に どっかり座り込むようになってしまいました。そしてそれ肩を揉め、頭を撫でろ、腹をさすれとばかり、ちょっとでもアーサーの体から手が離れると、触って欲しいと鼻先でツンツン突いて要求してくるようになってしまったという訳なのです。
 この犬との出会いは偶然でして、本当は別の犬種の犬を買う予定で犬繁殖センターというところへ出かけたのですが、その店頭でいろいろな犬を見ているうちになんとなく気に入ってしまって買ってきてしまったというわけです。
 そうだからといってそのときこの犬が特別私達に愛敬を振りましたかというと逆でして、他の犬はそばに寄ってきてちょこまかと歩き回り、キャンキャンと泣いて落ち着かないほど愛敬を振りまいてくれていたのですが、このアーサーだけは遠くの方で尻尾は振っているものの、 キャンキャンと騒ぐわけでもなく、走り回るわけでもなくとても落ち着いています。「おいで」と呼ぶとそっと寄ってきて私の手を遠慮がちに舐めるのですが、その様子がとても愛らしく、いっぺんに気にいってしまったというわけです。試しに土間に下ろして遠く離れて呼んでみますと覚束ない足取りながらしっかりと私のところへ寄ってきます。
 そしてこれによって私の事を覚えてしまったのか、店にいた間中私の後ろをちょこまかとついて歩くのです。

 こうしてこの犬は我が家の一員となりました。そしてイギリスのアーサー大王から名前を拝借し、アーサーという名前をもらいました。あれから14年、本当にいろいろな思い出を私たちのところに運んでくれました。
 そしてとうとう天国に旅立っていってしまったのです 。別れの辛さを思うともう二度と犬は飼いたくないと思ってます。なんだか心にポッカリと孔が開いたような心境です。
今にも遠慮がちに尻尾を振りながらそばに寄ってきて、肩を揉めと催促してくれそうな気がしますが、もうどこにもいないのです。 皆さんの中にはこんな辛い経験を持っていらっしゃる方はいませんか。

今回はアーサー追悼の為に美術のお話はお休みです。勝手な事を書いてごめんなさい。