ガリバー旅行記の中で、人間にそっくりの外観をしたヤフー達の奇妙な習性として、実生活に何の役にも立たないものの収集僻を挙げていたように思います。人間と言う種族の中にも物を集めるのが好きな人が非常に多く、その方たちの集められている物もテレホンカード、切手、コイン、石、宝石、玩具、スポーツ関連グッズ、万年青、蘭の収集家等などと多面に渡り、ちょっと思いつくだけでもきりがないほどです。
美術品とか骨董の収集家などと言うと、いかにも高尚な趣味人のようですが、良く考えてみれば此れ等の人も このようなコレクトマニアの一人でしかないのかもしれませんね。
ボストンと言うとすぐボストン美術館を思い浮かべられる人が多いと思いますが、その美術館のすぐ側にあるガードナー美術館と言うのが、此れがそういう意味でとても面白い美術館です。
まさしく収集家の執念のような物を感じさせる美術館なのです。建物はローマ時代の古い建物を模した、内庭式のコンクリート作りで、内庭の前後に建物が建ち、その建物の間を屋根付きの二本の通路で繋いでいるロの字型の建物よりなっています。その柱の一本一本が古いローマの建築様式を模した造りになっております。集められている物は、ヨーロッパの古典派から、バルビゾン派、印象派までのいろいろな絵画、骨董家具、食器、ガラス器具そして日本の骨董品等と多面に渡っております。
それらの品々がかつては コレクターの生活の中で使われていたであろうと思われる配置で部屋の中に展観されております。一見したところ その収集には特に一貫性と言った物は推察出来ません。業者さんが持ってきたもの、或いは街の店先で見かけた物で古くて価値の有りそうな物なら何でも欲しくなり、手当たり次第に買い集めたと言った印象です。そのコレクションの数は膨大で、充分に展示できないままに、廊下や,階段の天井下の物入れに押し込められているのも多々あります。私も収集家でもありますから何となく解るのですが、その収集は「欲しい、欲しい、欲しい」と見たり勧められたりしたものを何でも我慢が出来ず買ってしまわれたといった印象です。
こうして集められた古い品々に囲まれて、満足げにじっと座っておられたであろうガードナーさんのお姿を想像すると、それだけで鬼気迫るものも感じるとは思いませんか。しかしそういう意味(コレクター気質が推察されるという意味)からもこの美術館はとても面白いと思うのです。
こういうと誤解が生ずるといけませんから一言付け加えておきますと、だからと言ってこの美術館の収集品ががらくたばかりと言う訳ではありません。一つ一つを見れば、超一級品とまではいかないまでも、かなりな質の物が集められております。
一般にこうした私立の美術館等で集めてこられた収集品を見ておりますと、ここの美術館に限った事でなく どの個人美術館でもそうですが、集めた人の人柄とか、美意識、収集品に込められた思い、その収集に協力した業者の力量、品性のような物が忍ばれ、とても興味深い物があります。