オークション会社といえば、一般の人は証券取引所や、商品取引所と同じように政府のきちんとした監督下にあり、 公明正大に運営されているものと思いがちです。 したがってそこで決められた値段はそのときの比較的公正妥当な価格を示すものと思っていらっしゃるかたがほとんどではないでしょうか。
しかし全てのオークションが何らかの公的な規制のもとにあり公正なルールの下、運営されているのであれば、 そこで形成される価格はすくなくとも需要と供給によって決められた、その商品のそのときの相場を示していると言い得ましょう (株式相場でもお解かりのようにそれでも実際には多少の人為的な相場の操縦は入ってきております。 まして絵画のように一点しかないものを扱うオークションではどんなに厳格に行ってもいろいろな人為的な価格操縦が行われる余地が残ります)
ところが実際にはオークション会社は普通の営利会社と同じような単なる営利企業であって、 証券取引所等が受けているような公正な値段形成のための監督や規制は全く受けていないといのが実情のようです。
従ってその運営姿勢は一般の営利企業と同じように、その会社の良心と良識に任されております。 そうなりますと会社性悪説ではありませんが、営利企業というものは雪印乳業、ミスタードーナツ、日本ハムの例などでもお解かりのように、 とかく利益を優先しがちです。会社の利益のためには多少のインチキも不正も人に知られなければやってしまえ隠してしまえという傾向があります。 そこに会社としての社会的役割を考えない経営者が座った場合は、相場操縦とか同一作品についての売り方、 買い方の両方と二律背反的委任契約を結ぶといった反社会的な活動を行うわけですから、 オークションの会社を信じて利用するお客にとってはたまったものではありません。
ごく最近あった話しです。お客様のお一人が都内の某オークション会社カタログの中のある作品が気に入り、出来たら手に入れたいと思い、 その会社の担当者に電話して相談しました。するとその担当者は(実は彼はオークショナーでもあったわけですが)状況を説明してくれ、 『この作品は目下のところ書類や電話でのビットはありませんが、ある画商さんがとても興味を示されておりますので、 これくらいの価格でないと落札は難しいのでないでしょうか』と親切に教えてくれたのです。 以前にも彼に頼んでとても値打ちな価格で作品を手に入れたことがあるそのお客さんは当然彼のことを信用しています。
「それではその価格までで手に入るのでしたらお願いします」と彼を代理とする競りへの参加を委任しました。
オークション終了後電話があり、そのお客さんが指定した価格の直下の価格で手にはいった旨知らせを受けたのです。 ところがその電話を受けた時たまたまそのオークション会場におられたある画商さんがその場に居合わされ、 その落札結果を聞いて「その絵、会場では誰もビットする人はいなかったはずですが」といわれたのです。 そこで不審に思ったその人が競りの代理を委任した人にその事を質問したところ、彼は「確かに電話でも会場にも他にビッとされた人はありませんでした。 しかし私自身が欲しかったものですから競り上げました。したがってお客さんのアンダービッターは私です」というのです。
皆さんの中でこんな返事に納得される人がありますか。そんな人はおられないでしょう。
無論私のお客さんも頭にきて、「大体中立公正でなければならないオークショナーが同時に競りに参加するというのはどういうことか」
「そのように恣意的に値決めをされるということは、これが売主から委託を受け普通 の対面売買の形式で売られるというのであれば問題ないでしょうが、オークションという形式をとられる以上、そのような形での価格形成は相場操縦であり、 且つ買い方の代理人としての委任契約に対する重大な背任行為ではないか。 もしも他にビットする人がいなかったのなら最低落札価格での落札というのがあるべき姿ではないか」と詰問されたそうです。
すると彼は「この売り主はこれからもたくさん品物を提供していただかねばならない大切なお客さんですから、 あまり低い値段での落札ということになりますともう、ウチをご利用願えなくなる恐れがあり、これからの商売に差し障りますからそういう訳にはいかないのです」
「そうは言われましてもこのような価格操作は外国の有名なオークション会社でも日常行われていることで、大切なお客様のためにある程度の便宜を図るのは営業政策上やむをえないことですよ」と答えたそうです。その挙句「そんな不正な値決めによって決められた作品などは引き取れない」と憤慨したその人に対し「それならお返しくださって結構です。しかしもうウチのオークションには参加させませんから」と捨て台詞を吐いたそうです。
その人はオークション会社が会社ぐるみでそのような恣意的な値付けをしているとは信じられなかったものですから経営者の方に内容証明郵便を出し、 その本意を正しましたがその返事はろくに事実関係を調べるでもなく、その人への質問にきちんと答えるでもなく、 「オークション規約に沿って行ったものでなんら問題があるとは思いません」といったような木で鼻を括ったような返事だったそうです。 ということは経営者の経営姿勢そのものが営利第一主義であって経営者にもオークション会社としての社会的責任とか公共性というものには全く無関心だということを意味しています。
要するにこれはたまにしか利用しない一般の客の犠牲のもと、大口のお客様や上得意様に便宜を図り、 このようにしてオークション会社の利益を図るというのがその会社の営業姿勢だというわけです。 これでは一般のオークション参加者はたまったものではないと思いませんか。最近のオークションに対する苦情の大半は金を払ったのに品物を送ってこないとか、 送ってきた品物がカタログに記載されていたものと全く別の粗悪品だったとか、偽者、 或いは出品物の状態説明にはなかった許容出来ないほどの傷があるといった詐欺かそれに類するものだといわれています。
これは主としてネットオークションの急速な普及によるもので、このようなことは論外です。しかしこのような場合ですらもオークション会社は、 オークション規約を楯に決して責任をとってはくれないのが現状ですから、オークションを利用される人はくれぐれもその点だけは頭において置いてください。
表向きは公正を装っているオークションでもサクラなどを使って価格の吊り上げがおこなわれ、 このため思わぬ高値で買わされたといった苦情も少なくないといわれています。しかし今回のようにオークションの営業の人がオークショナーを兼ね、 しかも同一作品についての売り方、買い方両方のオークション参加への代理人兼ねているという、実に一人三役も四役も兼ね、 それも全く相矛盾する役を演じて平然と価格操作を行うといった無茶苦茶なオークションなどというのは始めて聞く話です。
しかし有利な金儲けの手段として近年参入してきたオークション会社の中にはこういった会社も少なくないと聞いていますのでくれぐれもご用心ください。 やはり歴史の古い会社、バックにきちんとした会社を持っているといった社会的な評判を気にする会社、ある程度以上の規模を持った会社を選んだほうが無難かもしれません。 歴史は浅く、従業員は数人オークショナーが営業も兼ねているというような小さな会社を利用される時は、 経営者の人柄とか経営姿勢をよく聞き理解されてから参加されたほうがいいのではないでしょうか。