No.195 ブンブンブン蠅が飛ぶ 蠅かと思えば蜂かもね その2

このお話はフィクションです

その4

岡路さんから聞いた話 その3

一般的に、一度ご購入を希望された方が、後に、キャンセルを申し出てこられた場合、表向きに言ってこられているキャンセルの理由が、必ずしも、真実の理由とは限りません。
今回の場合も、ここまで譲歩しても、(お客様から、)何の返事もないという事は、買う意思がないのだろうと思いました。
だから私は
「インターネットでの取引には、こういう事が起こりがちなんだから、美術館だからと言って、遠慮したのは失敗だったなー。
やはり、手付金は、貰っておくべきだった」と後悔しました。しかし今更どうしようもありません。
所が、翌々日のことでした。
購入希望の入っているメールフォルダを開きました所、あの路塚氏、ほんの少し前、作品を注文して、2週間近くもの間、(お金の)支払いを待たせたあげく、キャンセルされた、あの路塚氏からの、作品購入希望のメールがはいっているではありませんか。
それを見た私は、唖然としました。
前回注文されたものを、お金の都合がつかないからと、キャンセルされたばかりなのに、全く別の作品を、のうのうと、注文してこられた、お客様の心境が、私には、理解できませんでした。
「先日はご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。
なんとか買う事が出来そうになりましたので、次の2点を購入させていただきたいと思いますのでよろしくお願い申し上げます。

① 香谷陽二作  曙光(しょこう)富士
② 山口達治作  静物A
                    以上2点購入希望    路塚倫太郎」
とありました。
私、正直、どうしたものかと悩みました。路塚氏との前回のお取引の経過に、何とも釈然としないものがありましたから。
しかし私も、商人です。
一般的に、商人(あきんど)の弱い所ですが、買っていただけるとなれば、「折角ご注文くださったんだから」と、つい算盤勘定が先にたって、思慮を失って、突っ走ってしまいがちな事です。
私の場合も「前回ご注文作品のキャンセルは、美術館の設立準備委員たちの意見が合わなかったからかもしれないし、作品が、美術館設立に資金協力をしておられる方の、気に入っていただけなかったからかもしれない。
或いは、お金を支払う前に、作品を送ってほしいと言う、路塚氏達の頼みを、私が、事務的に断ってしまったので、委員たちの、気分を害したのが原因だったかもしれない。
他にもいろいろな原因が考えられるが、いずれにしても、それをそのまま、ストレートに言えなかったから、「金策がつかないから」といった、オブラートに包んだ言い方で、断ってこられたのだろうと、良い風に解釈していました。
だから、今回のご注文に対しても、「いくらなんでも今回は大丈夫だろう」と、希望的に解釈し、注文に応じることにしました。
とは言え、不審の念を、完全に、振り切るまでには、いたりませんでしたから、
「この度は、まことにありがとうございます。
ご注文、確かにお受けしました。
よって、ご注文の品の請求書を、送らせていただきますので、ご査収ください。
なお、誠に恐縮ではございますが、前回のお取引の際も申し上げましたように、私どもでは、作品は、代金のお支払いを確認してからの、お渡しという事にさせていただいておりますので、その点は、ご了承くださいますよう、お願い申し上げます。
 
            請求書 
一金 194,700.-也 
 内訳
香谷陽二作  曙光(しょこう)富士  ¥ 114,000.-
 山口達治作  静物A          ¥  80,700.-
                  合計 ¥ 194,700.-
お買い上げ作品の代金として、上記金額を、本日から一週間以内に、下記口座宛に、お振り込み下さいますようお願い申し上げます。なお、期日までにお振り込み頂けない場合は、このご契約は、なかった事にさせていただきますので、その点お含み置きください。
  平成23年12月2日                 多喜田画廊 岡路智之
振込先口座番号 東京四菱ANT銀行銀座支店、普通、2237567
        株式会社多喜田画廊 代表取締役 岡路智之宛でお願いします」
という内容のメールを、請求書を兼ねてお返ししました。
すると、
「注文お受けいただきまして、誠にありがとうございます。私どもの、金繰りの都合上、お支払いは、正月明け、来年の1月9日(月)にしていただきたいのでございますが、それまでお待ち願えないでしょうか。
以上誠に勝手なお願いでございますが、よろしくお願い申し上げます」と言ってこられました。
そこで私は、
「この度はお買い上げ、まことにありがとうございました。
所で、ご要望の件、24年1月9日までお待ちするのは、構いませんが、
それなら、この度の契約が成立した証として、手付金、一金20,000.- 也を4日以内、平成23年12月9日(午後2時必着)までに下記口座宛に、お振り込みくださいますようお願い申し上げます。
なお当日午後2時までに、振り込まれている事が確認できなかった場合は、申し訳ありませんが、今回の契約は、なかった事にさせていただきますのでご了承ください。
    平成23年12月5日             多喜田画廊  岡路智之
振込先口座番号 東京四菱ANT銀行銀座支店、普通、2237567
        株式会社多喜田画廊 代表取締役 岡路智之」
というメールを返信しました。
 

その5

岡路さんから聞いた話 その4

路塚氏からは、手付金の振り込みを、お願いしておいた日になっても、お金の振り込みはありませんでした。
その後、何も言ってこられないまま、路塚氏との今回の契約は消滅しました。
「おかしな人だったなー。一体あの人は何を考えておられたんだろう。どうも美術館の話は眉唾ものだな」と思い、そのまま彼の事は、忘れるともなく忘れてしまっておりました。

所が、翌年1月も中頃、確か1月16日の事だったと思います。
私どもの購入希望の、メールフォルダの中に、また、また路塚氏からの注文メールが入っておりました。
メールには
「先日は失礼しました。
前回、私の注文に対して、手付金をとのお話でございましたが、僅かな金額の品の注文だったにもかかわらず、手付金まで請求されました事に対して、いささか頭にきたものですから、それに、そんな僅かなお金を、わざわざ振り込みにいくのも、面倒な事もありましたが、そんな事が重なりまして、貴画廊の、手付金のご請求につきましては、無視し、お払いいたしませんでした。失礼の段、お許しください。
所で、先日、お宅のホームページを見ていましたら、前回、私が注文いたしました、あの絵画は2点とも、まだ売れずに販売中になっておるようでございましたが、まだ売れずに、残っているのでございましょうか。
もしそのようでございましたら、その2点と、今回、新たに注文する、3点と併せて、下記、計5点の作品を、購入をさせていただきたいと思いますので、よろしくお願いします。 

① 香谷陽二作  曙光(しょこう)富士
② 山口達治作  静物A
③ 山口達治作  卓上の花
④ 倉岡利樹作  雪娘
⑤ 斎藤玄一作  子連れ瞽女(ごぜ)
以上5点注文いたしますので、よろしくお願いもうしあげます。                       
上記作品の、お支払いに関しましては、今回は、24年の1月の20日には、一千万円以上のお金が入ってくる事になっておりますので、余裕を見て、1月23日には絶対、お支払いできると存じます。
なお、前回注文した際、手付金をというお話がございましたが、今回はお支払いまで、一週間余しか、ありません事ですし、またお支払いの金額も、払えなくてご迷惑をかけるほどの大きな金額ではございません。
よって、そう言う面倒な事は、ひらにご容赦ください」とありました。
                               
続く