No.196 ブンブンブン蠅が飛ぶ 蠅かと思えば蜂かもね その3
ブンブンブン、蠅が飛ぶ、蠅かと思えば、蜂かもね
このお話はフィクションです万一、似たような地名、姓名、場所、事件がありましても、偶然の一致で、実際の事件、実在の姓名、地名などとは、まったく関係ありません。
その6
岡路さんから聞いた話 その5
前回の件で、もう路塚氏とは関係が切れたとばかり思っていた私は、路塚氏からの、またの注文に困惑いたしました。
路塚氏の、これまでのやり方から考えれば、今回の注文だって、本当に、買って下さるかどうか、大いに疑問です。
土壇場になると、もう少し待って欲しいだとか、キャンセルしたいだとかと、言ってこられる疑念が拭い切れません。
だから、注文を受けるからには、前金なり、内金なり、頂いておかないと、彼からの注文は信用できません。
所が、路塚氏は、こちらの考えの先手を打たれて、手付金なしの契約を求めてこられたのですから、困りました。
注文を受けた以上、受け渡し日までには、引き渡せるように、注文された作品を、取り揃えておかねばなりません。
販売を委託しておいた画商から、返してもらったり、倉庫から持ってきて、痛んでいる所がないかを点検したり、埃をとったりと、それなりに結構手間がかかります。
その上、今回ご注文の作品の中の一点、香谷陽二先生の曙光富士は、これまた、私の画廊の持ち物ではなく、他の画廊から、販売を委託されている作品です。
しかも間の悪い事に、その作品、持ち主の画廊から、「貴方の所で売る事が出来ないのでしたら、そろそろ返却して頂きたい」と、言われている作品です。
従って、これ以上、私どもの画廊にその作品を、留めて(とどめる)おくには、買い取らざるをえません。
だから、私としては、キャンセルを防ぐために、この売買の、契約成立の証(あかし〉として、手付金(解約手付金)を絶対に、頂いておきたい所です
所が、路塚氏は、私どもが、手付金を頂きたいと言っている意味を、分かって言っておられるのか、分からなくて言われているのか、私が手付金の話をもちだす前に、先手を打って、手付金を打つ事を、やんわり断られてしまいました。
困りました。
手付金をうって頂けないのでしたら、この取引は取り止めにしたいと、本心思いました。
しかし、商いをしていますと、特にネット上での取引を主としている、私どものような画廊の場合、ネット上の評判が気になります。
下手に、この契約を断って、相手とトラブルを起こした場合、ネット上に真偽とり混じえての無茶苦茶な悪口を、流される事だって、ありえます。
それは瞬間的に広く皆さんに流れますから、例え直ぐに削除の手続きをしたとしましても、
事の正否はどうであれ、削除されるまでに蒙る、画廊のイメージダウンは、避けられません。
ですから、お客様とのトラブルは、できれば避けたいと、常に思っております。
そこで私は、
「 いつもご贔屓を賜り、まことにありがとうございます。
ご注文確かに承りました。
つきましては下記の請求書をお送りいたしますので、ご査収ください。
請求書
路塚倫太郎様
¥ 446,300.-也
内訳
香谷陽二作 曙光(しょこう)富士 ¥ 114,000.-
山口達治作 静物A ¥ 80,700.-
山口達治作 卓上の花 ¥ 74,800.-
倉岡利樹作 雪娘 ¥ 74,000.-
斎藤玄一作 子連れ瞽女(ごぜ) ¥ 102,800.-
5点 合計 ¥ 446,300.-
振込先口座番号 東京四菱ANT銀行銀座支店、普通、2237567
株式会社多喜田画廊 代表取締役 岡路智之
代金のお支払いは、平成24年1月23日(月)午後2時迄必着にて、お願い申し上げます。
何の御連絡もなく、期限内にお振り込みいただけない場合は、このお取引をキャンセルされたものとして、キャンセル料として¥44,500.-也をお支払いいただきますので、その点お含みおきください。
平成24年1月17日
株式会社多喜田画廊、岡路智之」
とメールで返信しました。
その7
岡路氏のお話 その6
私としては、もう路塚氏の今回の御注文に、何の期待もしておりませんでした。
従って、「最悪の場合、今回新たに仕入れを起こした、『子連れ瞽女(ごぜ)』は、在庫となってしまうだろうが、お客とのトラブルを起こすより良いか」くらいの気持ちで、今回の取引に応じる事にしました。
キャンセル料についても、空注文を防ぐ為に、警告として、一応は記載しておきましたが、実際は、手付金を頂いていない以上、法的にはどうあれ、いざ取り立てるとなりますと、その手続きと労力が大変で、この程度の金額の場合は、法的措置にまかせるかどうかは微妙なところです。
所でこの取引、結局、24年1月23日になりましても、お金の支払いはありませんでした。
路塚氏からは案の定(あんのじょう)、以下のようなメールがありました。
「申し訳ありません、急な用事ができまして、ただいま青森の方に来ており、1月23日に振込みができそうにありません。
1月28日(土)には自宅に帰る予定でございますが、その後は折悪しく、週末に掛かってしまって、銀行がお休みとなり、振り込みができません。
更にその後は月末となり、私どもの家の月末処理におわれ、振り込みどころではありません。
従いまして、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんが、お支払いは、24年2月2日〈木〉までご延期賜りますよう、お願い申しあげます」と言ってまいりました。
私はもう、相手にしたくありませんでしたので、彼のメールは無視する事にしました。
所が、平成24年2月2日になりましたら、さらに彼からメールがあり、
「毎度恐縮ではございますが、私、今日は急遽、鹿児島にきていて、またまた、お約束の今日のお振り込みができない状態となっております。
今度、家に帰るのは2月8日(水)夜となります。
2月9日にはお支払いする所存ではございますが、前回お支払いを約束した日はもうすぎてしまっておりますので、本日それはキャンセルということにして、新たに、もう一度、この5点の作品の購入を申し込み、2月9日(木)に即日お支払いという事にさせていただきますので、宜しくお願い申し上げます。
なお代金につきましては、既に、2千万円ほどのお金が銀行口座に入っておりますのでご心配はなさらないでください」と言ってこられました。
これには、驚きました。
お支払いを約束した日に払って下さらなかった訳ですから、当然、路塚氏と結んだ、5作品の売買契約は、もう消滅しております。
それを見越されてか、一旦キャンセルし、新たに同じ作品の購入を申し込むという、新手を使ってこられたというわけです。
まいりましたね、これには。
本来なら、ここでキャンセル料金が発生するわけですが、キャンセルして直ぐ後に、全く同じ作品を注文された場合、商業道徳上も、そんな請求をできるはずもありません。
従って、この手を使えば、こちらが、何処かで、はっきり取引を断らない限り、何時までも、支払いを引き延ばしたまま、注文した作品を売らせないで、引き留めておく事だってできないことはありませんからね。
しかし、私は、わざわざ、これほど手を込んだ事をされる以上、もしかしたら、本当に買う気がおありになるのだが、いろいろな事情が重なって、お支払いがお遅れになったのかもしれないと言う風に、善意に解釈して、直ぐにお断りしませんでした。
これが商人の弱いところなんでしょうね。売りたい、売りたいと思うスケベ心が、ついつい善意に解釈してしまうんです
後、少しの事だから、今度の支払い約束日、2月9日までは、待つことにしました。
所が驚いた事に彼、2月9日の支払いが、一円もされていないというのに、2月14日にはまた、新たに、三輪信二先生作の少女像と高田孝元先生作の砂漠キャラバンの2点の購入希望を、出してこられたのです。
この人が何を考えていらっしゃるのか、私にはさっぱり分からなくなりました。
だから余計、対応に困りました。
その8
岡路氏の話その7
本当に、買う気がおありになるのですが、いろいろな予期せぬハプニングが重なって、お支払いをして下さらなかっただけなのか、それとも、最初から買う気などない、単なる悪戯によるものなのか、或いは、次々注文を出して、お客様としての優越感を楽しんでいらっしゃる、愉快犯的な人なのか、それとも、私とのメールでのやり取りの途中で、気分を害されるようなことがあり、嫌がらせをされているのか、はたまた、こうしたやり取りを通して、こちらの落ち度を見つけだし、それに付け込んで、為にしよう(為にする:自分の利益にしようと下心をもって事を行うこと)とされているお人なのか、そのいずれであるか見当もつきません。
いや、そんな事じゃなく、もしかしたら、心が病んでいらっしゃるだけの人かもしれません。
こちらが、悪く取っているだけで、相手は、私が思っているような悪意を持っていらっしゃらない可能性だって、否定できません。
だから私は、なるべく、事を荒立たせないようにと、誠意を持って、我慢強く応対してまいったつもりです。
しかし、ここまで振り回されますと、もうこれ以上、この人と関わっている訳にはまいらないと思いました。
とは言え、私の所のシステムでは、購入希望のフォルダに、注文が入りますと、自動的に注文を受け付けた事になっています。
(註:この時点では、私どもの画廊としては、購入の希望を受け付けただけです。
売買契約が成立したわけではありません)
従って、そうはいっても、そのまま、この注文を無視した場合は、後々、それに付け込んで、路塚氏から、何らかのアクションを起こされる可能性だって否定できません。
そこで私は
「前回、ご注文下さった代金も支払って頂いておりませんのに、今回また、また、新たなるご注文、これまで貴方様が当画廊に対してなさってきた、再々の、御注文と、その支払いの延期、そしてキャンセルといった繰り返しに、私どもは大変困惑しております。
従いまして、今回の、貴方さま(路塚様)から頂きましたご注文を始めとして、これまで貴方様から頂きました、御注文の全てを、本日をもって白紙に戻させて頂きます。
同時に、路塚様との取引は、今後は、一切、ご遠慮させて頂きたく存じますので、ご了承のうえ、ご容赦賜りますよう、お願い申し上げます。
平成24年2月16日
多喜田画廊 代表取締役 岡路智之」
と、御断りのメールをしました。
その9
岡路氏の話 その8
すると、路塚氏、怒ってこられました。
長くなりますから、かいつまんで彼の言ってこられた内容をお話しますと、
まずは、
「今回の件、私どもが、(註:ここでの私は路塚氏を指します)期日になっても、代金を、お支払い出来ず、少し待ってほしいとお願いしたのは、不可抗力によるものでございました。
それも、一カ月も、二カ月も待ってほしいとお願いした訳ではありません。お支払いを、お約束していた日には、払えない事がわかりましたから、一旦その注文を、キャンセルにし、新たに、注文をし直しました。
たから、実際にはほんの数日間待ってほしいとお願いしただけでございました。
それにもかかわらず、私の今回の注文をお断りになられただけでなく、今後の、私どもとの、取引までも断ってこられるなんて、普通では、考えられない暴挙だと思います。
第一、貴社の規約では、注文してから、1週間以内に支払えば、良い事になっているではありませんか。
それにもかかわらず、私にだけは、その規約を無視して、僅か数日間の、支払日のずれのお願いを、断って来られるなんて、言語道断、まともな商人のする事とは思えません。
そんな事を平然とできるなんて、貴方は、金、金主義の、お金の亡者ですか。
私としては消費者生活センターに相談させていただく心算でございますから、そのお心算で」と抗議してこられました。(下記註参照)
一般にこういった客様は、クレーマータイプの人が多く、自分のそれまでに、されてきた事は棚に上げられ、自分のしている事は正しい、業者に非があると信じて、一方的に、しかもしつこく非難されるのが普通です。
従って、このような方には、私どもが、何を言っても、その人の耳に届きません。
こちらが、何かを言えば、その言葉尻を捉まえて、激しい言葉を使って、言い返して来られるのが普通です。
何かを言えば言うほど、話が錯綜(さくそう)し、トラブルが、大きくなっていくだけです。
ネットでの商いを主としている私としましては、常に、他人の目を意識して、商いをするよう心掛けている心算です。
法的な間違いを犯さないように心掛けるのは言うまでもありません。
それと同じくらい、他人さまから、非難されるような事はしないよう、お客様とのトラブルは、極力起こさないように、常に、心がけて対応しているつもりです。
今時のお客様の中には、何かというと、消費者生活センターへ相談に行くとか、警察へ言いつける、公安委員会に持ち込んで指導してやるなどなど、公権力を後ろ盾に脅して、自分の言い分を通そうとする人も少なくありません。
しかし、先ほどから申していますように、疚しい(やましい)事をしているつもりのない私としましては、何処へでも、相談になり、訴えになり行ってもらっても、かまわないと思っておりました。
否(いな)、それどころか、むしろそういった、公的な第三者機関に行って、公正な第三者の意見を聞いて来てもらった方が良いとさえ思っておりました。
(註:実際には、本例のような場合、相手の方が、自分に都合の良いように、脚色でもして、訴え出られない限り、そんなところへ訴えられても、相手にしてもらえないだろうと思えます。)
だから、私は、路塚氏から、何を言ってこられようと、相手にしない事に決めていました。
しかし、路塚氏の怒りは、なかなか収まりませんでした。
路塚氏は、私が何の反論もせず、ただ黙っていた事が、余計に、怒りを煽ったようで、殆ど毎日くらいに、メールをして来るようになりました。
彼は、私が正当な理由もなしに、商品を売ってくれなかったのだと、一方的に決めつけて、何やかにやと言って来られました。
彼の言い分は、
「商人のくせに、勝手に商品を売らないと言ってくるなんてとんでもないことである。商いをしている以上、お客が買うと言ったら、売る義務がある。
にもかかわらず、正当な理由もなく、売るのを断り、これから後の取引まで断ってくるなんて、言語道断、許される行為ではない。
まして美術館設立という文化事業に取り組んでいる、私達の苦労に、理解を示そうともしないで、何かというと、金、金、金と、お金の事ばかり言ってくるなんて、もっての外である。
そんな奴は人間的にも失格である。
画廊のような芸術品を扱う商売に、携わる資格はない。
公安委員会に訴えて、営業停止にしてもらうつもりであるから、覚悟してなさい。
いや、それだけでは足りないから、ネットに書き込んで、お前の所の評判をガタ落ちにしてやらねば気が済まない。
私は、結構執念深い性質(たち)ですから、その心算で」というような内容の、気味の悪いメールを、言葉を変え、繰り返し、繰り返し、送って来られました。
そのしつこさには、まいりましたね。
まさかとは思っていても、「私はしつこいですからね」と言いながら、不気味なメールを送ってこられるのを、何回も何回も受けていますと、相手の顔が見えないだけに、さすがに不安が募り、気が滅入りました。(註:相手の顔:ここでいっている顔は、肉眼で見ている顔を指しているのではありません。その人の考えている事だとか、性格なども含めた、その人物全体像を指しています。)
ネットへの書き込みに関しましては、実際に、虚偽の書き込みをされてしまいましたら、それが分かった時点で、直ぐに2チャンネルの事業者に削除を要請し、もし削除してくれなかった場合は、書き込んだ人間ともども、その掲示板の事業者を、業務妨害で訴える覚悟でいました。
相手の目的は、こちらを不安に陥れ、こちらが根を上げ、降参して謝ってくるのを待っているように見えました。
だからその手に乗らないよう気を張って、いざとなったら、訴訟でもなんでも受けて立つ覚悟でおりました。
でも、それが、毎日、毎日続きますと、まるでストーカー被害に遭っているかのようで、さすがに、気が滅入りました。
ただし、これは、あくまで、私どもの推定で、路塚氏が、実際に、それを意識してやっておられていたのかどうかは、分かりません。
お世話になっている弁護士さんとも相談して、これ以上、おかしな行動に出た場合は、直ちに告発する事にして、その準備を整えながら、相手のさらなる出方を見守ることにしました。
続く