No.51 こだわり。
以前やっていた、テレビの貧乏脱出大作戦という番組ご覧になったことがありますか。人は良いのですが、貧乏だといった 食べ物やさん達が、その道の達人の所に修行に行き、其れまで流行らなかったお店を、立て直すといったお話です。しかし此の番組を見ていて一番気になる点は、こういった流行らないお店を経営しておられるご主人達の仕事に対する態度です。共通して言える事は、いいかげんさと、志の低さです。単に技術的な物だけなら、よく流行っているお店のノウハウを教えてもらえば何とかなるでしょう。しかし性格的な物は僅か数日の修行で変われるような簡単な事ではないと思います。
私ども美術品の売買に携わるものとしましても、安易な妥協は 自分で自分の首を絞めるような物だと思っています。先日もお客様から、ある絵画の修復を頼まれまして、私の懇意にしている修復の先生の所に頼んだのですが、修復が終って戻ってきた絵がどうしても気に入りません。花の所に入っていたひび割れ部分が 直して頂いた後、本々の花の部分と色が違ってしまい、花の中に薄い線が入ってしまっている状態なのです。此れではこの絵、直してあります候で,絵其の物の価値が無くなってしまいます。先生にその旨を言いましても「この直しは此れで精一杯で、これ以上はどうしようもないですよ」といって取り上げて下さいません。そのままお客様にお返ししても、私どもとしましては、何とも無いのですが、せっかく頼ってきて頂いた物を 、自分が気に入らない状態で返すのは、どうも気が引けます。そこで色々な人に尋ね歩いて、ここなら信用できるかなとおもわれる修理の先生にもう一度お願いしてみました。すると今度は、前の場合とは違って、修復の跡が解らないくらいの状態で戻ってきたではありませんか。お客様には多少余分の御負担を願う事になってしまいましたが、それでも十分ご満足頂けた事は、私としてはとても嬉しい事でした。
後で他の業者さん達から評判を聞いてみますと、私が懇意にしていた修復の先生は、やはり今一つで、後から頼んだ先生こそが一流の修復の先生だとの話でした。新しい先生とお話をしていて解ったのですが、一流と言われる先生は、やはり”こだわり”を持っておられ、いつも前向きだという事です。自分の直しに自信は持っておられますが、其れでもその技術に決して満足してはおられないのです。だからいつも研究しておられるようでした。額縁屋さんでも同じような経験をした事があります。一流である事の誇りと、一流であり続けるための努力と研究を怠られないのです。単に見過ぎ世過ぎの手段としてやっておられないのです。自分の仕事への誇りの為に、ひたすら道を求めておられるといった感じです。
私の所等、まだまだ未熟ですが、こういった人々と御知り合いになれるだけで幸せだとおもっています。私も 後々までお客様に喜んでいただけるような画廊を目指し、安易に妥協することなく 常に観る目を養い お客様にも自分にも、後々までも満足のいけるような作品を扱っていきたいものだと願っております。