No.18 見合い相手がカツラという事を隠していたら詐欺?贋物?

 先日、私の年下の友人がお見合いをしました。最初の報告では相手はいわゆる3高(高学歴、高収入、高身長)で、感じが良かったようで、電話もうきうきした話し振りでした。ところが付き合いだして2ヶ月くらい経ってのある日の夜中、こちらが一日の仕事を終わりやっと床に就いたばかりのところへ突然の電話。こんな夜中に誰だろう。迷惑な話と思いながら電話をとりますと、例のお見合いでうきうきの彼女からでした。
 憤慨やるかたなしと言った調子で「もう彼さ、カツラだということ隠していたのよ。てっぺんまでいってるハゲだなんて、詐欺だと思わない?まるで贋物をつかまされたような気がするわ。」と言うのです。
 こちらも眠ろうとするところをかけてこられたものですから少々不機嫌で 「そうかしら、だったらコンタクトをはめている人も詐欺かしら、化粧化けしている娘はどう。ましてや美容整形している娘なんてそれならどういうの」 「愛があればそんな事克服できるでしょう。結婚の相手は性格と生活力だっていつも言ってたじゃない」 と冷たく突き放してやりますと、 「だってハゲは生理的にダメなのよ」「ハゲていると思っただけでぞっとしてしまうの」「折角良いところまで行っていたのに」と泣き出してしまったのです。

 この話は結局ダメになってしまったようですが、美術品だったら、これを贋物というでしょうか。多分本物であって、修復品として少し価値が落ちる程度なのではないでしょうか。
しかし彼女にとっては、後色付けとか、後書き込み位に限りなく贋物に近いと感じられるのかもしれませんね。

 私ども美術商の世界でなら、その様な品を扱いますと信用に関わりますから勿論キャンセルせざるをえません。しかし素人の場合でその絵に惚れこんでいらっしゃるのでしたら、偽物として妥当な値段でお買いになればそれはそれで良いのではないでしょうか。
ただ相手が人間の場合は妥当な値段というのが難しいですが。なぜならこういった結婚相手を選ぶ場合、どなたも払う価値として自分の価値をどちらかと言うと高く踏みがちですからね。

 ところで一般に絵の世界でいう贋物というのはどの範囲からいうのでしょうか。
1) 最初から贋物を目的で他の人の作風を真似て描き、それにその真似た人の署名をいれたもの。または他の人の作品を丸々真似て描いてオリジナル作品として市場に流通 しているもの。
2) 作品に、その絵の作者以外の人のサインを入れたもの。または作品に加筆修正してそれに本来の作者とは別 人のサインを入れたもの。
3) 印刷物に彩色したり加筆したものや印刷物そのもの。
4) 絵の入っている箱(箱の上に作品の題名、作家のサインが書かれていて一種の作家による保証のような働きをしています。共箱などといわれています)の箱の中にその作者の作品以外が入っている場合。
これら1) 2) 3) 4)は万人が認めるところの贋作です。もし人間に当てはめられるなら全くの他人がある人になりすまして相手を騙す、騙り(かたり)の様なものでしょうか。  売れてない歌手だとか俳優さんが、田舎へ行って有名人の一字違いの名前で公演するなどもこの類ですかね。
5) 贋作を作る目的でなく純粋に模写したものが何らかの手違いで本物として流通 市場に出てきたもの。
6) 中国の古い時代の作品、特に元の時代の物などにしばしばあるといわれているのですが、後世の皇帝が、大事な文物の紛失、焼失、汚染などを防ぐために当代の名人といわれる人に命じて複数の写 しを作らせておいたもの。
5)の場合などはそっくりさんが、飲み屋さんとか、街の中で本物と間違えられた時などに、いちいち訂正するのが面 倒だからと適当に相手に合わせて、本物のような顔をしたときのようなものでしょうか。
6)はさしあたり影武者のようなものですかね。 今までのは贋者と簡単に決め付ける事が出来ましたが、これからはだんだん紛らわしくなってまいります。
7) イ)版画などで、残っていた原版を基に後刷りしたもの。この場合後刷りとして作者が認め作者のサインが入っているものもありますが、作者に無断で刷られているものや、年代が経ち作者が亡くなってしまってからの後刷りでサインの無い物や、作者の後継者がサインを入れているもの、などいろいろあります。
ロ)本来はサインの無かったものにサインを真似て入れたもの。 ハ)オリジナルの版画に作者以外の人が後から色を加筆したもの。
ニ)作者に無断で刷られたエスタンプ。
ホ)試刷りとか後刷りが(版画の場合、本来の刷数以外に刷る前と後に刷られるもの)大量 にある場合など。
8) 本物であるが加筆、修正してあるもの。
7)や8)は美容整形したようなものでしょうか。一部は化粧化け美人がこの範疇に入るのでしょうか。程度の軽い修正などは、コンタクトしているとか、薄化粧程度と考えるべきでしょうかね。これくらいになると贋者とは一概に決め付ける事は出来ないですね。
9) はがし(墨筆画などでされる技法で一枚の絵の描かれている紙を剥がして、2枚にする。そして別 々に表装すると、1枚の絵が2枚になる。)
これなどは一卵性双生児というより現代ならクローン人間と言った方がぴったりです。どちらも贋者でないがオリジナルの本物でもないと言う複雑さです。

 以上、収集家として皆さんはどこまでを美術品として認めても良いと思っていらっしゃいますか。本物と称する物の中にも秀でた物もあれば駄 作もあります。本物と言ってもパン絵の類などの中には自己コピー作品と言っても言い過ぎでない作品も数多くあります。これらと贋者の秀でた物と美術的な違いは(金銭的な価値は別 にして)果たしてどれほどあるのでしょうか。