No.16 無くて七癖、役者馬鹿
世の中一人前に身過ぎ世過ぎをされていて、世間の人からは 立派な人と思われている人が、私生活ではとんちんかんで世話がかかってしかたがないと言った人がいます。私の知っている画商さんもこのような人の一人です。
この人は自分の子供の結婚式会場のリーガロイヤルホテルを、リッツカールトンホテルと取り違えて、「今度リッツカールトンホテルで結婚式を挙げますから」と言ってまわったものですから、周りの人が大迷惑をこうむったことがあるといった逸話の持ち主なのですが、こんな人ですから、私も時々とんでもない目に合わされる事があります。
例えば最近の話ですが、ある時電話がかかってきて、「おいださん、まとまった売り物があるのですが少し多いものですから迷っているのですが良かったらノリ(共同で買う事)で買いませんか」と言われます。売りにでている作品の画家の名前を聞いてみますと、ちょうど私が探していた画家の絵が沢山はいってあります。
そこでこれはありがたいお話しと、「是非お願いします。それでどこに行ったらいいのでしょうか」と聞きますと、「赤坂の何処そこにある”マンダリン”というお店にきてください。そこで待っていますから」とのことです。
そこで早速赤坂に行き、言われた場所のあたりを探したのですが、”マンダリン”というお店はどこにも見当たりません。
やむなく携帯電話に電話してもう一度聞いてみますと、「ほらどこそこの隣の”マンダリン”ですがね。早くきてくださいよ」とちょっといらいらした口調でいわれます。
いわれている場所でうろうろ探してみたのですが、やはり見つかりません。そこにあるのは”マドレーヌ”というお店だけです。ひょっとしてと思って、恐る恐るもう一度携帯に電話して「もしかして”マドレーヌ”という名のお店ではありませんか」と聞いてみますと、「御免御免 イヤー 間違っていました。”マドレーヌ”でした」とのお返事。この寒空、時間を気に掛けながらあちらこちらと引っ張りまわされた私としては大迷惑な話だとは思いませんか。
またこんなこともありました。これも最近に起こった事ですが、ある絵を委託して売っていただいた時のお話しです。
お客さんから値引きをいわれ、その画商さんにとっては大切なお客さんですから、むげに断る事も出来ず困っておられた時、「私の方も苦しいのですが、しかたがありませんね。今回限りという事にしてそれではこれこれだけ値引きさせていただきましょう」といって差し上げました。
そうした所、とんとん拍子に商談が成立し、しかもとてもお客様に喜ばれたのです。
商売が上手くいったものですから「おかげで上手く商売させていただきました。」「上手くいったお祝いに六本木の○○で一緒に御食事でもしませんか」「お礼といってはなんですが、御食事の後近くのビックリドンキーでなんか買わせていただこうと思っているのですが如何でしょうか」といってこられたのです。
ビックリドンキーと言われましても、そんな名前のお店は今まで聞いた事がありません。なんだかハンバーグ屋さんみたいな名前なものですから、一体何を下さるつもりなのかなと疑問に思いながらもでかけました。
さてお食事の後、一体何処へ買い物に行ったとおもいますか。何とドンキホーテ(ブランドもののバッグ等から電化製品迄いろいろな品物を安売りしているお店)へ行ったのです。一体どんな発想が、ドンキホーテをビックリドンキーへと結び付けるのでしょうね。
日常お話しをしている時はとても頭も切れ、商売も上手で、きちんとしていられる人です。
特に商売に関係している作家の名前などはとても良くご存知で決して間違えられる事はない方なのです。
ところが店の名前や、商売に関係のない土地の名前というと大雑把で、とんちんかんになられ側にいるといつも迷惑をかけられる人です。
世の中役者馬鹿といわれる人がいるとは聞いていますが、一つの事に秀でていても他の事は全く無頓着で、抜けていらっしゃるといった人が本当にいらっしゃるものですね。