No.12 江戸前の魚は本当に美味しいか

 よくテレビのグルメ番組などで、「江戸前の魚が一番」と力説している人を見かけます。でも本当に江戸湾で獲れた魚だけが美味しいと思いますか。おらが国さの食い物がどこより美味しいというのは、必ずしも江戸の人だけに限られたものではなく、昔から各地方ごとにそう言われています。

 それは子供の時から食べ慣れてきた事による舌の馴化の問題だと思うのです。これと似たような言葉に日本の牛肉は世界で一番美味しいと言うのがあります。でも本当に他の国々の人々もそう思っているのでしょうか。
 私も時々外国に行く機会があり、その国の人とお食事をしながらお話をする機会があるのですが、決して日本のあの霜降りのたっぷり入った、柔らかいあのお肉が最高とは思ってはいないようです。事実フランス料理のソースと日本の霜降り肉は必ずしも相性はよくないのです。あのこってりしたソースはやはりフランスのお肉の方が美味しく思えるのです。又欧米の人にとっては、日本の柔らかい、噛み応えのない肉が必ずしも美味しいとは考えていないようです。これは日本人のほうに元々は穀物を主体にする雑食性の民族と、肉類を主体にしてきた人々との民族性の違いにも由来しているのではないかと思います。

 このような見方の違い、考え方の違いは必ずしも食事だけの事ではなく、文化、歴史、宗教など多義に渡ります。そしてそれらが今までの民族の争いの原因になっていたのではないでしょうか。私たちはとかく知らない文化を否定し軽蔑してきました。特に明治以降、主として欧米文化の影響を受けてきたせいか、欧米文化を崇拝し、日本文化を高揚し、それの裏返しとして、アジアの国々の文化を軽んじてきているように思えてなりません。しかし皆さんの中の一部の人が民度が低いと考えていらっしゃる東南アジアの国々にも、固有の文化もあれば、宗教もあり、歴史(欧米の侵略によって一時代、断ち切られてしまっているという不幸はありますが)もあるのです。たまたま欧米流や、日本流という違いというだけなのです。特に中国や韓国の文化は日本のお手本だった時代もあったのです。これからの日本が世界、特にアジアの国々と仲良くなっていくためには、相手の立場を理解し、それを尊重する事から始めなければいけないのではないでしょうか。

 私の画廊でも、国を問わず、良い物は良いとして将来取り扱っていきたいと思っております。皆さん方も海外に出られた時は、お買い物やグルメ、景色を見るといった事だけでなく、そこに住む人々の思想、宗教、歴史、文化などに触れてこられる事をお勧めします。
私たち日本人が、今後本当の意味で国際人になっていく為には、自国の文化の優越性だけを主張するのではなく、他国の文化や宗教を知り、それを認め、尊敬すべきです。そしてそれがこれからの日本人が地球という宇宙船の乗組員の一人としてで生きていくためには絶対必要な事ではないかと思うのです。