No. 3 オークションは本当に適正価格が形成されるか
アマチュアの皆さんはオークションというとまったく公正に価格が形成されるとお思いでしょう。しかし残念ながら必ずしもそうとばかりにはいかないのが現実です。一つのものの根付けに比較的たくさんの人が参加する株や商品相場も、仕手相場といって、結構値段が恣意的につけられる事がある事は皆さんご存知でしょう。まして絵画のオークション等はせいぜい数人、多くても十数人のその絵画の希望者が一つのものを競るのに参加するのですから、オークション会社が仮に公正無私であったとしても(このことについても疑問があるのですが、これについては後でまた考えてみましょう)、競売に参加する人の思惑によっていろいろ左右されます。
先ず皆さんが買う時から考えてみましょう。例えばある人気画家の絵が競売にかけられた時のことを考えてみましょう。比較的人気のある画家の場合は当然、競りへの参加者も多くなります。こういう作品の場合オークション会社はオークションへの参加者が少しでもたくさんになるようにエスティメートを安めに設定してある事が往々にしてあります。もっと高いと思っていた作品が思わぬ 安値で設定されているので、購買心を持っている収集家はこれなら画商で買うよりもずっと安く買える。やっぱり画商から買うと高い(でも実際にはエスティメートと落札価格は別 です。この点錯覚なさらないでください)と思って参加する人等も加わって、比較的多めになるかもしれません。
でも予算とかその絵に対する好き嫌いその他の要素もあり、結局その絵のセリに参加する人はせいぜい十数人でしかありません。セリの参加者は皆さんのようなアマチュアから当然プロまで参加しています。プロの中には安ければ商品として仕入れようと思っている人もいますが、その絵を自分の画廊で扱っていた立場上、価格を買い支えようという画廊主がいることもあります。(このような絵画に対する扱い画廊の買い支えはごく日常的に行われていることです)また売り主とつながりがあって(画商自身がその絵の売り主である場合とか、その絵の売り主と知り合いだとか義理がある場合等)その絵に少しでも高い値 がつく事を願っている人もいます。
またアマチュアの買い方の皆さん方の中にもいろいろな人がいます。お祭り気分で参加している人、どうしても欲しい人、相場観をきちんと持っていてこの値段までなら買おうと思っている人等いろいろです。
さて競りが始まりました。この絵は比較的人気作家のしかも良い絵ですから最初の内は多くの人が参加します。でもある値段が過ぎてくると安値で買おうと思っていた人や、値頃感をきちんと持っている人たちは降りてしまいます。でも少しでも高く買って欲しいと願っている人たちは、ここで作戦を立てます。この絵を本当に欲しがっている人は何人いるか、どの程度欲しがっているか等考えます。そこで本当に欲しがってきいる人の顔色を伺いながら競りあがっていくのを助けます。そしてある目的の値までくれば、そこでセリからおります。無論、買い方の購入意欲が低そうな時は、目的の値段まで来なくても早めに降ります。またアマチュアの買い方の購入意欲が強いと思えば、どんどんせり上げてくることもあります。しかし最後は本当に欲しい人同志の勝負となるわけです。この段階になるともう参加している人はせいぜい2~3人、多くの場合は指しの勝負になります。この頃になると会場のムードは最高に盛り上がり、セリに参加している人も平常心ではなくなっています。何だかこの絵画が素晴らしく、良い絵という気がしてきます。そしてこの絵がとても欲しくなっています。負けるもんか、取られるもんかと意地になってきてしまします。
それを盛り上げる会場の雰囲気に煽られてどんどん競りあがっていきます。まるで催眠術にかかったよう状態です。こうして実際に流通 している価格から飛び離れた値段で落札という事になってしまうのです。しかもその値段に10から15%、20%の手数料と、それに消費税が上乗せされますから、後で冷静になってみるとどうしてこんな絵を、こんな高く買ってしまったかしらと思うような値段になっています。これが人気作品のセリの場合のオークションの現実です。
以前、ゴッホのひまわりの絵を安田海上火災が日本円で53億円、また大昭和製紙の斎藤了英氏がルノアールの「ムーランド・ラ・ギャレット」を約108億8千5百万円、オートポリスの経営者の鶴巻氏がピカソの「ピエレットの婚礼」を67億1千万円と、その頃の常識を上回る価格で落札し、絵画バブルのはしりを作り、世界の収集家から顰蹙を買ったのはいい例です。先の作品のように世界の宝というような物の場合はそれも仕方がない事かもしれません。でも後になってどんな値を出してもあの時買っておくべきだったと思うような、名作はそんなにありませんよ。要するによほどきちんとした相場観と冷静さを持たない限り、思わぬ 高値を掴まされる可能性があるということです。
さて次回はそれほど皆さんの関心を引かない、すなわち人気のない作家の作品の場合について考えてみましょう。